ブラックリスト

ジェームズ・スペイダー主演!
全米視聴率ナンバーワン!新たな海外ドラマの大本命と話題沸騰中の最新超大型サスペンス

コラム

ジェームズ・スペイダー、出色の役作り

なかなか当たりが出ない地上波の新番組の中で、今年の勝ち組に一番乗りとなった「ブラックリスト」。まず目を引くのは、FBIの最重要指名手配班の"レッド"を演じるジェームズ・スペイダーの異様な風貌だろう。恰幅よく剃り上げた頭の不気味さに加えて、何を考えているのかわからない不敵な表情は、ミステリアスといえば聞こえはいいが、どこかひとを食った、薄ら笑いをこらえているようにも見える。筆者はFBIに丸腰で出頭してきた冒頭のシーンですっかりレッドに呑まれてしまったが、つかみはオッケーでも、出だしのインパクトをどれほど維持出来るのかと心配になったのも事実。パイロット版(第1話)が面白いのは当然なのだから。が、レッドがスペイダーによる出色の役作りであることはすぐに思い知らされた。

 

レッドは残酷で容赦ない冷酷な犯罪者。同時に、思わずじっと目の奥をのぞきこんでしまいたくなる吸引力は、レッドのキャラクターが思った以上に複雑で、それゆえに興味をかきたてられるからだろう。とりわけ、新米捜査官エリザベスとの奇妙なシンパシー、共鳴し合う"何か"が本作のキモと思われる。この2人の間に何があるのかはまだまだ謎が多いが、筆者が一歩踏み込んでぐぐっとこのシリーズに思い入れを感じたのが第3話。エリザベスに「あなたには何もない」と言われたときのレッドの何とも言えない表情、そして当のエリザベスもまた"独り"である現実に思いを馳せるシーンからは、うっすらと、だが確実に2人の間に存在する"何か"が読み取れる。それは本作を評する際によく言われる、『羊たちの沈黙』のレクター博士とクラリスの関係性を想起させるものであるが、レッドのしゃれっ気と人を食ったユーモアはやはりスペイダー一流の独特の役作りと言えるだろう。

 

スペイダーは海外ドラマのファンからすれば、「ザ・プラクティス」のシーズン8(ファイナル・シーズン)に登場し、その後のスピンオフ番組「ボストン・リーガル」のアラン・ショア役のイメージが強に違いない。正直、「ザ・プラクティス」はディラン・マクダーモットの後を継いだだけに誰がやっても厳しいだろうと思ったが、そこはさすがのスペイダーでアラン・ショアは通算3度のエミー賞に輝く当たり役となった。コミカルさが際立ち変人の役でもあったが、このあたりは2002年の映画『セクレタリー』などに通じるものがあるだろうか。レッドもまた一連の"ちょっと変態入ってる"といった、『セックスと嘘とビデオテープ』(89)などから続く映画におけるスペイダーのイメージを踏襲しているように思う。が、少し古い映画ファンにとってスペイダーといえば、『ぼくの美しい人だから』(90)などのセクシーでかっこいい、思わずうっとりしてしまうようなトキメキ系の銀幕のスターだったはず。最近では、『リンカーン』(12)でも「え、これスペイダー?」と思わず確認したくなるほどのおっさんぶり(失礼!)に驚かされたが、「ブラックリスト」を観ればよくわかる。やっぱりスペイダーはセクシーでかっこいいのだ。これ、本当! エピソードが進むごとに面白さを増すシリーズだが、スペイダーの魅力もまた実に味わい深い。この手の中堅どころの俳優が、実力と個性をきっちりと発揮出来る優秀なTVシリーズを観ることほど楽しいことはない。

 

今 祥枝
映画、海外ドラマライター。海外ミュージカルファン。「BAILA」「eclat/エク ラ」等女性誌に映画連載、「日経エンタテインメント!」に海外ドラマ連載ほか、映画サイト「シネマトゥデイ」で企画・執筆。著書に「海外ドラマ10年史」 (日経BP社)