LAW & ORDER: LA: インタビュー

米国にてロングラン・ヒットを記録した犯罪サスペンスドラマの最高峰「LAW & ORDER」の最新スピンオフ・シリーズ

インタビュー

ポリス・テクニカル・アドバイザー チック・ダニエル氏 インタビュー

ロサンゼルス市警察で26年警官として働いた経験を生かし、「LAW & ORDER」をはじめ、数多くの映画製作の現場で監修にあたる “ポリス・テクニカル・アドバイザー”のチック・ダニエルさんに独占インタビュー取材を敢行!ドラマの中で繰り広げられる犯罪捜査をどのように演出しているのか、お伺いしました。

Q.ポリス・テクニカル・アドバイザーになるまでのなりゆきを教えてください。

チック:70年代に警察官になり、CRASH(Community Resources Against Street Hoodlums)というギャング犯罪専門班で働いたり、Metropolitan Unitというダウンタウン・ロサンゼルス都心担当の班で働いたりしたあと、特殊部隊SWATに配置されて12年働き、昇進して麻薬、殺人部署で刑事として働いていたんだ。(警察では合計26年間勤務)
1990年代初頭に、当時無名だったスティーブン・セガールに出会い、彼に警察としての演技アドバイスをするようになり、「テクニカル・アドバイザー」としてキャリアを始められる事に気がついた。それで元海軍の特殊部隊の友人と起業したんだよ。

Q:ポリス・テクニカル・アドバイザーの仕事とは?

チック:脚本家にはじまり監督、小道具、衣装部から、正しい警察の描き方の質問に答える事だよ。制服の着かた、銃器の持ち歩き方、警察としての仕事の手順に関して、脚本家とは台本の時点で、セットでは監督の質問に答えるよ。同時に、俳優を本物の警察にみせるようにトレーニングを行い、各エピソードのストーリーラインにそなえて準備もする。

Q:「LAW & ORDER」のような番組にとってポリス・テクニカル・アドバイザーはどんな役割ですか?

チック:「LAW & ORDER」は刑事を描いたドラマでもあるから、本物の刑事ならどうするか、犯罪の背景にはどのような事を描くか、各刑事はどのようにして刑事になったのかという背景を組み立てる事がとても重要だったんだ。だから、俳優とは一人ずつ話し合い、各キャラクターのバックグランドについてもきちんと話したよ。

Q:ロサンゼルスの犯罪の特徴について教えてください

チック:ロサンゼルスは大都市でチャイナタウン、コリアタウン、黒人が集中するサウスセントラル、ヒスパニックが多く住むイーストサイドに加え裕福な白人層の住むウエストサイドなど様々な人種がいる。だから犯罪も地理的場所によって傾向がある。ロサンゼルスやニューヨーク等の大都市は、脚本家にとっても様々なストーリーを生み出す事のできる大きなキャンバスだと思うよ。

Q:地域によって、ロサンゼルスの犯罪はどう異なりますか?

チック:サウスセントラルは黒人、イースト・ロサンゼルスはヒスパニック人口が多く、クリップスやブラッズなどギャング犯罪も多い。だからといって裕福なウエストサイドに犯罪が無いわけではなく、逆にウエストサイドやバレーでは白人至上主義たちが、ギャングと同様な犯罪を犯したりしているよ。
目につく犯罪は多くないが、ビバリーヒルズなどの高級住宅地に脚を運び犯罪が犯されるケースもある。「LAW & ORDER: LA」のエピソードの一つ(第1話:ハリウッド)は、実際にウエストサイドであった空き巣強盗が基になっている。映画スターなどのセレブの豪邸をターゲットに、セレブがイベントなどで家に居ないタイミングを狙って空き巣をするんだ。

Q:ロサンゼルス市警察の特徴は?

チック:ロサンゼルス市警察は、米国内でもトップ警察の一つだといわれている。トレーニング、雇用プロセスもとても厳しく、制服も非常に特徴的だ。紺色の制服を有名にしたのも、ロス警察が始まりなんだ。

Q:カリフォルニア独特の州法で捜査に影響を与えるものはありますか?

チック:ロドニー・キング(ロサンゼルス暴動)などランパート・スキャンダルの結果、ロサンゼルス市議会の定めで米国司法省により、ロサンゼルス市警察が人種差別的捜査を行わないようにするように監察する協定*を定め、後に法律化された。その結果影響として警察は、捜査の際に、一般からのクレームを受付け常に何か人種差別的な事が無かったかモニタリングしている。
(*2009年にこの協定は廃止された)

Q:「LAW & ORDER: LA」のエピソードの中には、実際にロサンゼルスで起きた犯罪を基にしたストーリーがあると聞きましたが?

チック:そうなんだ、エピソードの一つにロサンゼルスの殺人鬼グリムスリーパーを基にしたエピソードがある。長い期間、多くの殺人を犯した犯人を警察は見つける事ができず、結果的にFamilial DNA (家族のDNAから犯人にたどりつかせたDNA捜査)で犯人逮捕に至ったんだ。
そのエピソードでは、実際の公判記録を見たり、DNA捜査に詳しい鑑識課の人を連れてきて、脚本家や監督にDNA捜査に関するアドバイスをしたよ。

Q:俳優達にはどのような指導を?

チック:検事役を演じていた俳優には実際の検事達がアドバイスしていたので、僕がアドバイスしたのは警察官役だけだったけど、俳優を射撃場に連れて行き銃の打ち方を練習させたり、警察の仕事手順(手錠等)を教えた後、シチュエーションを決めて警察としてどのような行動を取るのが正しいか練習したよ。

Q:服装についてはどんなアドバイスを?

チック:見た目はとても重要だよ。僕なんかは、制服を着ていなくても身なりで警察官を見分けられるよ。俳優には歩き方だとか、スーツの種類だとかもアドバイスした。普通刑事はジャケットの前をしめない。すぐに銃に手が届くようにね。一方検事はもっとフォーマルだし銃も無いから前をしめるんだよ。

Q:TJ役のコーリー・ストール、ウィンターズ役のスキート・ウールリッチは刑事役としてどうでしたか?

チック:上手に演じていたと思うよ。僕以外の刑事にも会わせて実際の仕事の様子を見せたりしたからね。その経験を上手に演技に生かしていたよ。

Q:俳優陣はどんなアドバイスを求めてきましたか?

チック:俳優は、カメレオンのように表情を変え、情報の吸収力も凄い。だからセットでもどんな小道具を持って、犯人を前にどのような姿勢でどの位置に立つべきなのかなど細かい事まで聞いてきたりするよ。立ち位置はカメラの位置に左右されるけれどね。

Q:警察官が容疑者を”尋問”するシーンが多くありますが、リアルに描かれていたと思いますか?

チック:そうだね、TVドラマだからある程度脚色を加えてドラマチックになっていたり、証言を得るのに要する時間は実際はもっとかかったりするのが短く描かれていたりするけれどね。でも尋問室の様子はリアルに描かれていたよ。

Q:警察官と検察官のやり取りは、ドラマでは実際と比べてどう描かれていますか?

チック:警察と検察の関わりは書類業務のための関わりなんだ。警察は検察側に容疑者を逮捕できるだけの証拠を提出しなくてはならない。その上、その事件を法廷裁判にかけた時に、裁判官の前に提出するだけの証拠、情報を渡してあげるんだ。事件の証拠が弱い時は時に検察官に「こんな証拠が必要だから探してこい」と言われることもあるよ。でも、「LAW & ORDER: LA」では検察官が事件の最初から関わっている事が多いけれど、実際は検察官が事件現場に来たりする事はほとんど無いよ。

Q:警察官は検察官の事をどう感じているのか?

チック:警察と検察は常に良い仕事関係を保っているよ。お互いに悪い人間を裁きにかけなくてはという同じ使命感があるからね。時には警官としてきちんと証拠集めをしたと感じても検察官に否定されて不満を感じる事もあるけれど、大抵は良い仕事関係を保っているよ。

Q:警察官ではない人が「警察ドラマ」を描くにあたり苦労する事は?

チック:手錠をかけながら、台詞を言うのはとても難しいんだ。右脳左脳を同時に使わなくてはならないから。だから四苦八苦しない俳優は見た事がないよ。とても難しいから、いつも俳優に台詞を言わせながら練習させたりするよ。
監督はスムーズな動きを求めても、俳優は手錠が上手くかけられても台詞をしくじったり、台詞が出来ても上手く手錠がかけられなかったりと、大変なんだ。
撮影の間は毎日、立ち位置にしろ、容疑者、目撃者に聞く質問の種類、何を書き留めるべきなのかだとか細かい事も常に指導したよ。コーリーはジャケットを着ないでシャツの袖をまくっていることが多いけれど、それも実際にありえるのかどうか僕に確かめてきたよ。

【2011年8月】

ページトップ

©2010 Universal Network Television LLC. All Rights Reserved.