世界の一線の映像SFクリエイターたちに最も影響を与えた偉人を3人挙げろと言われたら、私は日本の円谷英二特撮監督、「スタートレック」を生んだジーン・ロッデンベリー、そして「サンダーバード」を生んだジェリー・アンダーソンと答える。「地球防衛隊テラホークス」はアンダーソンが1983~86年に製作したSF人形劇。日本では1985年から翌年にかけてNHK総合テレビで放送されたが、以後あまり再放送されていない上、日本国内ではDVDなどソフト発売もされていない"幻の作品"だ。
先んじてアンダーソンの名を世界に知らしめたのは、1965~66年に作られたSF人形劇「サンダーバード」。大富豪トレーシー一家の"国際救助隊"は事故・災害が起きた世界各地に急行し、スーパーメカの数々を駆使して人命救助に活躍。これらスーパーメカがとにかく魅力的で、それまでは円谷英二率いる円谷プロによる「ゴジラ」シリーズの特撮が世界最高レベルだったが、日本で1966年4月から放送された「サンダーバード」は、翌年から始まった円谷プロの「ウルトラ」シリーズのメカ描写にも影響を与えた。
主要なサンダーバード・メカは、ロケットとジェット機の中間のような1号、空飛ぶ格納庫というべき2号、宇宙ロケットの3号、潜航艇の4号、地中を進むジェットモグラなど。見た目がカッコいいだけでなく、当時は子供だけでなく大人まで"世界にはこんな機械がある"と信じたほどリアルに描かれたのが、画期的であり衝撃的だった。
中でも特筆すべきは、一家が住む秘密基地でもあるトレーシー島(これ自体も「サンダーバード」の代表的メカだ)における、各メカの発進シーンの数々。メカが屋内をゆっくりと動くことが醸す重量感。ジェットエンジンが吐き出す物凄い煙。空に飛び立ったメカの美しさ。これらのハーモニーは半世紀経った現在(!)もまったく色あせていない。
アンダーソンの偉大な功績はけっして「サンダーバード」だけではない。SF人形劇として先がけた「スーパーカー」「 宇宙船XL-5」「海底大戦争 スティングレイ」、「サンダーバード」に続いた「キャプテンスカーレット」「ジョー90」、俳優陣が演じたドラマ「謎の円盤UFO」「スペース1999」など、各作品の個性は見る人によって好みが分かれるかもしれないが、いずれも特撮やメカが強い印象を残した。
本稿の最初でアンダーソン作品は多くの映像SFクリエイターに影響を与えたと記したが、今年発売された「謎の円盤UFO 完全資料集成」(洋泉社)の序文では、「新世紀エヴァンゲリオン」「シン・ゴジラ」の庵野秀明監督も「謎の円盤UFO」に強く影響を受けたと語っている。そんな庵野監督の「エヴァンゲリオン」が現在どれだけのクリエイターに影響を与えているかを考えると、さらにアンダーソンの功績は光り輝く。
さて"幻の作品"「地球防衛軍テラホークス」だが、久しぶりに見直して筆者は、アンダーソンの集大成のようにも見えた。2020年、南米のどこかに本拠地を置くテラホークス(地球防衛軍というよりは地球防衛隊と呼びたいチーム)は、ゼルダ率いる宇宙の侵略者たちと戦う。そんな基本設定はアンダーソンの「キャプテンスカーレット」や「謎の円盤UFO」と、まず似ている。
そしてテラホークスの各メカは、アンダーソンの世界の中でも科学が進歩したかのように、機能性だけでなくデザイン性も重視。旗艦であるバトルホークの上に搭載された小型機テラホークの作動や、主要戦闘機ホークウィングから上部翼が外れる場面を見ると、日本の「ウルトラセブン」のウルトラホーク1号がアンダーソンにフィードバックしたかのようで、特撮 & SFファンには刺激的だ。
他にもたくさんのスーパーメカが登場する「地球防衛軍テラホークス」。CGが未発達だった、アナログ特撮時代の終期を飾った伝説的作品としてぜひ注目したい。
池田敏
海外ドラマ評論家。海外ドラマのビギナーからマニアまで楽しめる初の新書「『今』こそ見るべき海外ドラマ」 (星海社新書) 発売中。