「NCIS: ニューオーリンズ」のシーズン3の見どころの1つに、検死官をアシストする科学分析官、セバスチャン・ランドが、プライド率いるNCISチームのエージェントとして仲間入りを果たすという展開があるが、その過程を見ていた私は「セバスチャンよ、お前もか…」と思わずつぶやいてしまった。
「お前も」と「も」が付いたのは、シリーズの最初に科学捜査官として登場したキャラクターが後に、他のエージェントたちと共に現場に出て犯罪者たちと向き合う仕事に”転職する”例をその前にも見てきたからだ。
私が見た最初の例は、本国アメリカでは2000年から2015年にかけて放映された「CSI: 科学捜査班」のグレッグ・サンダースだろう。スタンフォード大学の秀才という設定のグレッグはDNAラボの責任者という職に就いていたのにシーズン5から現場捜査の見習いを始める。同じ「CSI」シリーズの「CSI: ニューヨーク」のシェルドン・ホークスに至っては、外科医でありながら自ら現場捜査官への異動を希望する。グレッグにしてもシェルドンにしても名門私立大学や医学部を卒業させるためにバカ高い授業料を支払わされた親の立場はどうなるのだ?と余計な事まで考えさせられてしまった。
実際の専門家の目からも犯罪ドラマの人事は奇異に映るらしく、シドニー工科大学の科学捜査技術センターの研究者は「現場捜査にあたる捜査員とラボの研究員の仕事が交差する事はほとんどありません。現場捜査員は現場の証拠を集める訓練を受けているのであって、その上彼らにDNA分析のエキスパートになる訓練を受けさせるのは非現実的です。1人の弁護士が刑法も不動産法も扱うようなものですから」と語っている。
私のような素人が見ても不自然なのに「犯罪ドラマ人事」が相変わらず繰り返されている最も大きな理由は、ラボ勤務のキャラクターの人気が出て、登場場面を増やしたい、活躍するところもっと見せたいと、プロデューサーや脚本家チームが考えるようになるからだと推測する。それに加え、演じる俳優の方も毎回毎回ずっと同じラボのセットで検査機器を相手にするシーンばかりでは面白くないにちがいない。「NCIS: ニューオーリンズ」でセバスチャン役を演じているロブ・カーコヴィッチは、ラボを飛び出してNCISニューオーリンズ支局のエージェントの仲間入りを果たした事について以下のように語っている。
「エージェントになる事は最初の2シーズンに出演していた時からの夢だった。銃を持って駆け回るのはカッコいいだろうなって。『リーサル・ウェポン』のような映画を見て育った子供時代に戻ったみたいに考えていた」
科学捜査のエキスパートが銃を持って駆け回るのは確かに非現実的かもしれないが、俳優が嬉しい気持ちで演じ、ファンもそれを見て楽しめるなら、「犯罪ドラマ人事」もそう悪いものではないのかもしれない。
【ロサンゼルス(米) 荻原順子 2018/04/24】
荻原順子: 在ロサンゼルス映画/TVライター。キネマ旬報とTVタロウにハリウッド情報コラムを連載中。