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レッドライン ~悲しみの向こうに」主演のノア・ワイリーが、脚本家組合(WGA)のストライキに参加した。米紙の取材に対し、長年TVで活躍するスターの一人として率直な思いを語った。
ノアと共にストライキのピケットラインに立ったのは、ノアがかつて出演していた「ER 緊急救命室」の仲間たち。約75名がかつて同番組が撮影されていたスタジオ近くに集結したのだ。1994年から2009年にかけて全15シーズン製作・放送された「ER 緊急救命室」。今や伝説となった同シリーズのような作品はもう二度と製作されないだろうと言われている。
皆が同じ時間にTVの前に座り、同じ番組を見て、翌朝職場や学校で同じ話をする、かつてはTVが共通の娯楽だった。しかし、そんな時代は過ぎ去り、話題になるのはネットフリックスやアマゾンプライムなどの配信、もしくは有料チャンネル。誰もが好きな時間に好きな画面で好きな作品を視聴するのが現代だ。
ノアはかつての仲間と再会し、「ER 緊急救命室」時代に思いをはせた。今でも「ER 緊急救命室」のような、特定の主演俳優を設けず、複数のメイン俳優がそれぞれのエピソードで活躍するアンサンブル型のドラマが好きだという。
「アンサンブル型は、メイン俳優だけが影響を受けるものではありません。スタッフやエキストラ俳優たちもアンサンブル型では働き方が変わります。僕ら一人一人では到底達成できない何かを作り上げるために、皆が力を合わせるのです。その何かが『ER 緊急救命室』のように長年愛される作品だとしたら、これほど幸運なことはありません」(ノア)
「ER 緊急救命室」の仲間たちは今も家族のような付き合いをしているという。伝説のシリーズは15シーズンもの間、俳優やスタッフ総勢数百人に安定した雇用を続けてきた。打ち切りの不安もなく、撮影場所もほとんど固定。フリーランスとして働く俳優やスタッフにとってこれほど有り難い職場はなかっただろう。
「TVシリーズの仕事が好きですね。僕は、ブルーカラーの仕事だと思っています。ヘルメットをかぶり、昼食付きの現場で働くような感覚です。朝6時に出勤して、夜は8時か9時まで働くのです」
映画スターのように世界中を飛び回り撮影する、そんな生活に誰もが憧れるわけじゃない。スタッフならなおさらだ。自宅から通い、家族と共に寝起きする、そんな気持ちの安定を求めるのはごく普通の感覚だろう。
「一緒にストライキに参加している仲間たちとは、『ER 緊急救命室』がスタートした30年前から友情を培ってきました。短いTVシリーズや映画では、ここまでの関係は築けないでしょう」
時計の針を巻き戻せないことは分かっている。それでも「ER 緊急救命室」の現場が充実していただけに、既存のスタイルの良さを取り入れることはできないかと考えている。
ハリウッドのストライキは単に待遇改善だけではない。ITが変える仕事のスタイルを労働者の視点から見直す問題提起でもあるのだ。
<「variety.com」 5月31日>