December 8, 2017
「ブラックリスト」のハリー・レニックスが、地元シカゴの新聞のインタビューで自身の一番“恥ずかしかった思い出”を語っている。
「約35年間も俳優として働いているから、酷い経験や恥ずかしかった思い出は数えきれないよ」と語るハリー。映画『バッド・ボーイズ』(1983年)で端役出演してから、『マトリックス』シリーズ、『スーパーマン』シリーズ、そしてTVでは「24 -TWENTY FOUR-」、現在の「ブラックリスト」に至るまで数々のヒット作に出演してきた。輝かしい経歴の陰でひっそりと、ハリーの記憶に今も眠る“恥”を掘り起こしてもらおう。
「恥ずかしくって笑ってしまうのだけど、最近だと、こんなことがあったよ。ワーナーブラザーズで、非常に著名なキャスティング・ディレクターの前で(オーディションの)本読みをすることになったんだ。あるコメディアンが用意したパイロット版だ。学校を舞台にしたシットコムだったんだよ」
そのコメディアンとは、マイク・オマリー。「glee/グリー」ではカートの父親役を演じるなど、主役から脇役まで幅広くこなす俳優だ。マイクが脚本も手掛けたシットコム「Prodigy Bully」は、2012年にFOXでパイロット版が製作された。
「僕は若い頃、シカゴの公立校で教えていた経験もあるから、何をすべきか分かってるつもりでいたんだ」
実際に経験があるのだから、教師役はお手のモノ、さらに「ずっとテレビに出演していて、そのころにはオーディションを受けることも無くなっていた。だから少し自信があったんだね、いや過信だったかな(笑)」
ワーナーブラザーズには、15分前に到着。ハリーはそこでようやく脚本に目を通したのだった、数日前に手に入れていたにもかかわらず。
「(脚本を前にして)僕は自分が準備不足だと気が付いた。脚本に何が書いてあるのか、さっぱり分からないんだ。事前に台詞を確認するのをさぼったツケだ。あらすじだけ読んで、学校の話だとは知っていたけどね。僕が校長先生の役だとも。本当にそれだけしか分からなかった」
その胸中など知るよしもなく、早めに現れたハリーの姿を見て、キャスティング・ディレクターは大喜び。やる気の表れと考えたからだ。
「仕方なく中に入ると、ネットワーク(FOX)のトップも来ていた。名の知れたプロデューサーや監督もいたよ。もちろん脚本家(マイク)もね」
居並ぶ大物の前で、「もう頭が真っ白だった。だけど、その状況で僕に何ができる?台詞を読むしかなかった。酷いもんさ、部屋中が凍り付いたね。皆が僕のことを良く思っているのは知っていたし、僕の仕事を高く評価していてくれたかもしれない。とにかく楽勝でモノにできたはずなんだ。完全に準備不足、何も考えてなかった。実際、僕は謝った、『酷い出来だと分かっています』ってね」
この後、首をうなだれて部屋を出ることになったハリー。仕事は一つ逃したが、教訓も得た。
「用意できていなければ、決して演じない」
「おかしなことを言うようだけど、あの経験以降、僕はオーディションを受けるのを止めたんだ、本当の最終段階でない限りね。僕は十分仕事をしてきた。有名な作品もある。だから、もう何度も何度も自分自身を証明する必要はないと考えているんだ」
ポジティブシンキングなのか、やけっぱちなのか。“恥ずかしかった思い出”はよほど身に応えたようだ。それでも、5シーズン続いている「ブラックリスト」に出演、映画の待機作も続々と、仕事はますます好調だ。ハリーが“恥ずかしかった思い出”から得たのは、自分への信頼だったのかもしれない。
<「chicagotribune.com」 9月25日付け>