声優名鑑 -田中秀幸

声優で見る作品を選ぶという、ドラマ。ファンは少なくない・・・。毎回一人の声優に焦点をあて、本人インタビューや出演作品の映像をもとに、「ドラマ吹替え制作当時」のとっておきのエピソードや彼らのバイオグラフィーを紹介するドラマ・ファン待望のコーナーを完全収録!

田中秀幸

田中秀幸

「白バイ野郎ジョン&パンチ」のジョン役でおなじみのベテラン声優。ピアース・ブロズナンの声や、「キン肉マン」のテリーマン、「王様のブランチ」のナレーションなど、大活躍されています。

俳優の道へ進んだ経緯

田中
子どものときにラジオドラマの仕事をやったことが、こういう世界に入るきっかけです。
僕が5歳のときだったんですけれど、当時、ラジオドラマがすごく多かった時代で、「アッちゃん」というドラマの主役を一般公募するという、今でいう公開オーディションがあったんですね。そのときに、映画好きの父が、「オーディションってどんなものか行ってみたい」というので、連れられてオーディションを受けました。500人くらいのオーディションだったかな。僕は、全く児童劇団などには入っていなかったんですけれども、そこでたまたま受かってしまったんです。その仕事をちょうど小学校の6年間やりました。それがそもそも、この世界に入ったきっかけですね。
そして、高校を出て、こういう仕事をやっていこうと思いました。それまで僕は役者の訓練みたいなものは一切受けないままにやっていたので、きちんと基礎からやり直していかなければいけないということで、桐朋学園の演劇科で、4年間舞台の勉強をしました。

どんな子ども時代だったか

田中
僕はね、子どものときって本当に引っ込み思案で無口でおとなしい子だったんですよ。だから、子役をするというタイプでは全くなかったですね。当時の新聞の切り抜きやインタビュー記事などを見ると、「うん」とか「はい」しか発してない(笑)。よく続けられたと思うんですけどね。でも、役者をやってみたいという願望はありましたね。
大学の演劇科に入ったときに、このままじゃやっていけないだろうと感じましたね。芝居をやろうっていう人間って、結構、個性の強いのが来るじゃないですか(笑)。そんな中で、僕はこの性格じゃやっていけないなと思って、そのときに随分自分の性格を変えようとしたし、実際に変わりました。僕は大学時代に得たものは、お芝居のこともそうですけれども、それ以外のものっていうのも(幅を広げる意味で)とても大きかったと思います。

声の仕事と出合った経緯

田中
僕は「アッちゃん」という番組をやめたあとも、学校に差し支えのない範囲で仕事をしていこうということで、いろいろな方から声をかけていただいていました。割と声の仕事って、学校の時間に支障のない時間でできたんですよね。だから、子供のときから声の仕事はずっと続いているから、どこで(声優としての仕事に)入ったかっていうのは、はっきりしないんです。

声の仕事で印象に残ったもの

田中
初めてレギュラーでやったアニメの作品っていうのが「ドカベン」(主役・山田太郎役)だったということがあって、やっぱり「ドカベン」かな。

ナレーション、アニメ、洋画吹き替えの違い

田中
異なるといえば異なるし、同じといえば同じだし。どうかな......。割と見たまま、感じたままにやるほうなんです。あまり物事を論理的に考えていけないタイプです(笑)。B型ですから(笑)。

ナレーションをあてるうえで気をつけていること

田中
やっぱり、作品全体のカラーですかね。気をつけていることは。あとは、ナレーションの番組でもさまざまじゃないですか。ドキュメンタリーみたいなのもあれば、バラエティーみたいなのもある。僕が今、レギュラーでやっている「王様のブランチ」という番組は、いろいろなコーナーがあるので、そのコーナーごとの色合いをはっきりつけようとか。まあ、番組次第ですかね。

息の出し方の違い

田中
(ナレーションと吹き替えで)自分では変えているつもりはないんですけれどもね。どうなんだろうな。うーん......。きっと変わっているんでしょう。おもしろいことに、ナレーションは座ってやるほうがやりやすいんですよ。せりふは座ったままだとしゃべれない(笑)。これは単に習慣なのかもしれないけれど。きっとそんなところで、やっぱり息の出し方とか使い方が違うのかもしれないですね。

好きなキャラクター

田中
僕は、どちらかというと、ものすごいカッコイイ役よりも、とても内向的で弱い人間で繊細でというキャラクターが好きです。きっと自分が演じやすいんじゃないですかね。

悪役について

田中
思い切った悪役って、そんなにないですね。(そういう役がきたら)やってみたいですね。うまくいくかどうかはわかりませんけれど(笑)。

海外ドラマの魅力について

田中
海外ドラマっていうと、シリーズものっていうことですよね。やっぱり、一つの作品と違って何話か通して物語がつくられているということで、今回は彼が主役だけれど、次は脇役のだれそれにスポットライトが当たるというような、出ているいろいろな出演者に沿って話が進んでいくので、見ている側はその世界に少しずつ少しずつ、入っていきやすいというのが魅力じゃないですかね。

「白バイ野郎 ジョン&パンチ」を初めて見て

田中
アメリカでもものすごく人気のあった作品なんですが、最初に「ジョン&パンチ」を見たときは、刑事ものにしては割と話が地味かなという印象がありました。それと同時に、ハイウェイパトロールのメンバーたちの日常みたいなものがすごく描かれた作品だったので、おもしろくしていけるかなという感じはありました。

ジョンというキャラクターについて

田中
ジョンですか。まじめなパトロール隊員ですね。(彼の声をあてるうえで)そんなに気は遣わないで、思ったままにやりました。当時、深夜の枠でスタートしたということもあったので、みんな割と思ったままに、自由につくっていたんじゃないですかね。だから、多少オリジナルのキャラクターとは違うかもしれない(笑)。特にパンチなんかは、オリジナルよりもこっちの古川(登志夫)さんのつくった日本語版パンチのほうが、全然テンションが高いし。ジョンなんかも、オリジナルはあそこまでまじめなキャラクターじゃないのかもしれない。(古川さんとの取り決めは)したのかな。まあ、ジョンとパンチという2人のキャラクターを、はっきり性格づけしてしまおうということで、ジョンが聞き役、パンチがはじけたキャラクターという色づけは、向こうのオリジナルよりもはっきりしたと思います。

「ジョン&パンチ」現場でのかけ合い

田中
楽しかったですよ。古川さんは、結構、台本にないアドリブをどんどん入れてくるしね(笑)。でも、アドリブを入れてくるといっても、古川さんの場合、思いつきで入れてくるんじゃなくてきちんと計算されてきたアドリブだから、受けに困るということはなかったです。
(後ろを向いているときにちょこちょこ入れたりすることも)ありましたよ、結構。見えないところは新しいせりふをつくっちゃったりとかね(笑)。

「ジョン&パンチ」の人気

田中
ファンの方からの反響も多かったですし、ファンの集いみたいなものをあちこちでやりました。アフレコ実演はしなかったですが、バイクを用意して、ハイウェイパトロールの格好をさせられて(笑)。日本のオリジナルなんですが、エンディングを2人で歌っていたので、それを歌ったりしました。タイトルは、「カリフォルニア・サンセット」です。

「ジョン&パンチ」の見どころ

田中
当時、日本語版をやっていたメンバーって、とても仲がよかったんです。しょっちゅう飲み会だとか旅行だとか行って。だから、オリジナル版よりも日本語版のほうが、ハイウェイパトロールのチームワークのよさみたいなものが出ているかな。その辺が見どころですかね。

「帰ってきた白バイ野郎 ジョン&パンチ」を吹き替えて

田中
仕事とはいえ、とても懐かしい、同窓会みたいな雰囲気でしたね。

「007」ピアーズ・ブロスナンについて

田中
ジェームズ・ボンドって日常的なキャラクターじゃないでしょう。「こんなキザなこと言わんでしょう」ってせりふばっかりだし。だから(ピアーズ・ブロスナン演じるボンドに)声を当てるときには、普通のキャラクターよりはちょっとつくっていったという感じですかね。

「エイリアン」「ターミネーター」マイケル・ビーンについて

田中
マイケル・ビーンって、僕は好きです。とっても自分でやってて演じやすいというか。好きな役者さんですね。割と無理につくらなくてもすんなり自分が入っていけるという感じですかね。(好きな役者を1人選ぶとしたら)マイケル・ビーンかもしれない。

アテレコの世界で変わったこと

田中
いろいろ技術が上がってきたために、今まで声の仕事をやったことがないような、いろんなジャンルの方たちが入ってこられるようになったということはありますよね。昔はとにかく、アテレコやアニメは慣れるまでに時間がかかる。ちょっと慣れない人が入ってしまうと、延々と時間がかかってしまって大変なことになってしまうというのがありました。でも今は、ものすごく技術が発達しているので、いろんなジャンルから入ってこられるようになった。そういう面ではおもしろいかもしれませんね。

演技をするうえで気をつけている点

田中
常に自分の感性を豊かにしておくっていうことでしょうかね。

演じることの魅力

田中
どうでしょうね。うーん、やはり、自分以外の人物になれること。普段の日常だったらできないような表現――例えば、大声でどなるとか。そんな喜怒哀楽を、役になりきることで出せるじゃないですか。あとは、みんなで一つのものをつくり上げていくという作業ですかね。

田中さんにとっての「声優」とは

田中
やっぱり、舞台の仕事とか劇ドラマの仕事とか、やらせていただいてきたなかで、やはり声の仕事が一番、自分が何かを表現しやすかったという仕事だったんでしょうね。

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