アクエリアス 刑事サム・ホディアック

「X-ファイル」のデヴィッド・ドゥカヴニー主演!
悪名高きチャールズ・マンソンとその真相に迫る刑事、そして60年代のアメリカを鮮やかに描く衝撃作!

特集

アメリカの黄金期における光と影

1960年代のアメリカは、ホワイトカラーを中心とした中産階級の生活水準が飛躍的に向上し、自動車を始め一戸建住宅、テレビなどの家電製品などが普及。当時のアメリカ経済はめざましい発展を遂げ、世界を凌駕していた。
一方60年代後半のベトナム戦争は次第に泥沼化していき、アメリカの若者は戦争反対を訴え、また黒人の選挙権獲得を目指す公民権運動が広がりを見せる。
歴史的事件を振り返ると、61年に43歳の若さで就任したジョン・F・ケネディ大統領の元、米ソ間の冷戦の緊張から核戦争寸前までに達したキューバ危機、60年代中に人間を月に到達させることを目指したアポロ計画、そして63年にケネディ大統領暗殺が起きた。ケネディ大統領以外にも政治家や社会的指導者の暗殺が相次ぎ、65年に公民権運動の指導者マルコムX、68年にマーティン・ルーサー・キング牧師、同じく68年にはケネディ大統領の弟、ロバート・F・ケネディが暗殺された。
キング牧師の暗殺後、革命による黒人解放を目指すブラックパンサー党が台頭する一方、反戦運動が過激化していった。社会が混沌としていく中、「秩序の回復」を掲げ、ベトナム戦争からの早期撤退を公約したリチャード・ニクソンが69年に大統領に就任する。
アメリカの資本主義の黄金と混沌の60年代、戦後に生まれたベビーブーマー世代は若者となり、ベトナム戦争に反対し、『愛と平和』を合言葉に、旧来の制度や慣習にとらわれない自由な生き方を目指すヒッピー・ムーブメントが起きる。社会生活を放棄し、髪をぼさぼさに伸ばした独自のファッション、そしてLSDやマリファナを用いて精神の自由を謳い開放した。旧来の家族の概念にとらわれず共同体生活を送る者も現れ、その中から本作で描かれるカルト教団、チャールズ・マンソンとその"ファミリー"が生まれた。

時代が生んだカウンターカルチャー

若者に向けて、映画界で新たな動きが起きる。アメリカン・ニューシネマの登場で、67年『俺たちに明日はない』『卒業』、69年『真夜中のカーボーイ』『イージーライダー』『明日に向かって撃て!』が公開された。反体制的な若者が体制に闘いを挑むが、最後には体制に殺されるなど、個人の無力さを思い知らされて幕を閉じる。従来のハリウッド映画にはないアンチヒーローが主人公で、ハッピーエンドではなかった。
音楽シーンに目を向けると、大きなムーブメントがいくつも起きる。1つが「ブリティッシュ・インベイジョン」(英国の侵略)で、ビートルズやローリング・ストーンズに代表されるイギリスのロックバンドがアメリカで巻き起こした旋風だ。
62年にイギリスでデビューしたビートルズは64年に初めて渡米し、降り立ったニューヨークの空港には5万人のファンが押し寄せたといわれる。その後、ストーンズ、ザ・フー、アニマルズ、キンクスらがアメリカに進出した。一方、そんなブリティッシュ・インベイジョンに対抗したアメリカ勢が、「サーフィン・ミュージック」のビーチ・ボーイズや、ソウルやR&Bを歌うモータウンのスプリームスなどだ。
一方、時代の代弁者と言われたボブ・ディランが登場。アコースティックギターとハーモニカで演奏し「詩人の心を持つアーティスト」として"フォークの貴公子"と呼ばれ、特に反体制の若者を中心に人気を博した。60年代後半、サンフランシスコではサイケデリック・ムーブメントが起きる。LSDなどの幻覚体験から生まれるアートやファッションなどの芸術表現のことで、幻覚のイメージを音楽に取り入れたのがサイケデリック・ロックだ。ジェファーソン・エアプレインやグレイトフル・デッドらが代表するバンドとして人気を博する。

また、魂を揺さぶるような激しい歌い方をするジャニス・ジョップリンや、誰もまねできないようなギター・プレイを見せるジミ・ヘンドリックスが出現。
そして、60年代最後の年の69年、カウンターカルチャーの象徴としてアメリカの音楽史上に残るサリバン群ベセルホワイトレイク「ウッドストック」で開かれた野外コンサートに40万人の若者が集まった。
ウッドストックでロックパワーを見せつけた69年だが、同時に69年~70年にかけてアーティストの麻薬中毒による死亡や社会的事件が相次ぎ、新たな時代へと移っていく。69年、ローリング・ストーンズの初代ギタリスト、ブライアン・ジョーンズが麻薬中毒で死亡。同年ローリング・ストーンズのコンサートで、警備に雇われた暴走族ヘルズ・エンジェルズが暴徒と化し、客を殴り殺す事件が起きる。
狂信集団の首謀者マンソンがビートルズの『ヘルター・スケルター』(68年リリース)の歌詞にハルマゲドン思想を想起させ、マンソン・ファミリーが女優シャロン・テートを含む7名の惨殺事件に至らしめたのも奇しくもこの年だ。

60年代~70年代の名曲の数々でリアルに甦るドラマの世界

「アクエリアス 刑事サム・ホディアック」には、その激動の時代を彩るように、60年代の音楽が数多く流れている。『恋のマジック・アイ/ザ・フー』『黒くぬれ!/ローリング・ストーンズ』(第1話)、『デイドリーム/モンキーズ』(第2話)といった人気アーティストのほか、音楽家としての顔を持つチャールズ・マンソンが作曲した『Look at Your Game Girl』(第1話、2話)、『True Love You Will Find』(第3話)といった曲も流れる。
さらに各エピソードタイトルに当時の曲名が使用されているのも興味深い。
『燃えつくせ/ザ・バーズ』(第1話)、『イッツ・オールライト・マ/ボブ・ディラン』(第10話)、『ユア・マザー・シュッド・ノウ/ビートルズ(』第12話)など、タイトルと曲名の関係を想像しながら観進めていくのもの楽しみのひとつだ。