毎年秋に大きな番組改編がある全米TV界の視聴率強化月間(スウィープ)は、11月、2月、5月。そして1983年5月1・2日に、全米NBCネットワークが投じた目玉番組が「V」第1・2章。日本でも人気を博した「地上最強の美女!バイオニック・ジェミー」(76〜78)「超人ハルク」(78〜82)の名プロデューサー、ケネス・ジョンソンが監督・脚本・製作総指揮をつとめた(ジョンソンは新生版「V」でも企画/原案などでクレジット)。世界中の大都市の上空に巨大UFOが出現し、エイリアンの"ビジター(来訪者)"が人類に友好的な交流を呼びかけるが、実はビジターの目的は人類の支配だった......。
第1章の冒頭、世界中の大都市を巨大UFOが覆う壮大なイメージや、ビジターが人間に似た皮膚の下から爬虫類のトカゲのような素顔を見せ、小動物を頭から丸ごと飲み込む場面は圧倒的なインパクトを与え、視聴者を驚かせるのに成功した。そんな第1章は全米で視聴率25.4%という大反響を呼ぶのに成功。翌年の84年5月6〜8日には続編となる第3〜5章"V:The Final Battle(原題)"も同じ全米NBCネットワークで放送され、やはり高視聴率を獲得した。
エミー賞や全米脚本家組合賞にもノミネートされている。そこでNBCは、すぐにさらなる続編である1時間シリーズ、「V2〜ビジターの逆襲」への継続を決定。84年10月26日〜85年3月22日に全米放送された。「V」は、全国DCコミック社からコミック版が、独自のストーリーを描く小説版もそれぞれ出版され、86年にはTVゲーム版も発売された。
日本では、まだレンタルビデオ黎明記だった1987年、第1〜5章がまとめて「V」の邦題でビデオリリース。無名のスタッフ・キャストのTV用の作品のせいか、マスコミなどで大きく取り上げられなかったにもかかわらず、レンタルしたユーザーのほとんどが借りた巻を返却すると同時に次巻もレンタルするほど夢中に。結果的にレンタル店の棚に並んだ「V」の各巻のパッケージから、"貸出中"の札が外れないという現象が発生した。翌88年には1時間シリーズの「V2〜ビジターの逆襲」もリリースされてやはりヒット。
最終的には合計7時間38分もある「V」第1〜5章だが、レンタルビデオは1巻あたり平均49.5回、最高で141回という高回転を記録した。またダイアナ役のジェーン・バドラーは1988年7月25日に来日し、日本のファンに歓迎された。海外ドラマというと、後に「ツイン・ピークス」(90〜91)、「X-ファイル」(93〜02)、「24-TWENTY FOUR-」(01〜10)でも似たような現象が起きたが、海外ドラマのファンが新作エピソードを求めてレンタル店に殺到するという現象を初めて起こしたのは「V」だ。
そんな「V」は、日本では88年12月〜89年2月にようやくオンエア。日本テレビ系のゴールデンタイムの映画枠「金曜ロードショー」で放送され、平均18.5%、最高22.7%(第5章)という高視聴率をマーク。続いて90年5月から「V2〜ビジターの逆襲」が、第1話が「金曜ロードショー」で放送されて視聴率15.4%を記録したのに引き続き、日本テレビの日曜日夜10時30分枠で放送された(視聴率はビデオ・リサーチ調べ)。
かくして大反響を呼んだオリジナル版「V」だが、後のSF映画にも大きな影響を与えている。中でも第1章の冒頭、世界中の大都市の上空に巨大UFOが出現する場面は、幾つかの映画で同様のイメージが見られる。大都市の上空に空飛ぶ円盤が出現するアイディア自体は、『2001年宇宙の旅』(68)の原作者である作家アーサー・C・クラークの「幼少期の終わり」がルーツかと思われるが、それを視覚的にしっかりと見せたのがオリジナル版「V」の真骨頂だった。ちなみにプロデューサーのジョンソンは、レジスタンスという題材は米国初のノーベル文学賞作家シンクレア・ルイスの"It Can't Happen Here"を下敷きにしたと明かしている。
大都市と巨大UFOの組み合わせといえばすぐ思い出されるのは、96年の大ヒット映画『インデペンデンス・デイ』。パニック大作の名手、ローランド・エメリッヒが監督し、ウィル・スミスらをキャストに迎えたSFアクション大作だ。冒頭、世界の各都市に巨大なUFOが到着するビジュアル・イメージは、先がける「V」からの影響が大きかったはず。
近年もアカデミー賞で作品賞にノミネートされた話題作『第9地区』(09)にも同様のイメージが。エイリアンを難民として受け入れた南アフリカが舞台だが、エイリアンたちが乗って来たUFOが南アフリカの上空に浮いている光景は、やはり「V」と似ている。
世界各地の大都市の上空に、宇宙から飛来した計50機の巨大UFOが出現する。現れたエイリアンたちの外見は人間と同じで、彼らは友好と平和のため、人類と交流したいと申し出てくる。人類は彼らを"ビジター(来訪者)"と呼んで歓迎するが、カメラマンのマイク・ドノバン(マーク・シンガー)はUFOの中で、ビジターたちの真の姿が爬虫類のような外見であること、彼らが人間を食糧にしようとしていることを知る。マイクがこの事実を公表すると、ビジターたちは武力と技術力で人類を支配しようと行動を開始。しかし人類の一部はレジスタンスを結成し、ビジターたちに抵抗していく......。
タイトル中の"V"が意味するのは"ビジター(Visitor)"であると同時に、レジスタンスが獲得していく"勝利(Victory)"のこと。ビジターの女性リーダー、ダイアナ(ジェーン・バドラー)が生きたモルモットを丸ごと食べる場面も有名。第1・2章はレジスタンスの武装蜂起を描き、『未来世界』(1976)『探偵マイク・ハマー/俺が掟だ!』(1982)のリチャード・T・へフロンが監督した第3〜5章は、ビジターに妊娠させられた人間の女性が出産するなど、派手な見どころがさらに盛り込まれた。後の『エルム街の悪夢』(1984)で殺人鬼フレディを演じるロバート・イングランドが、ここではビジターのウィリー訳に扮していた。
「V」の第5章のラスト、ビジターを退治する薬品を人類が開発し、人類の猛攻を受けたビジターは全滅したかに見えたが、ビジターの女性リーダー、ダイアナ(ジェーン・バドラー)だけは生き残り、他のUFOに救われる。宇宙には他にもUFOがいたのだ。束の間の勝利に喜んだ人類だが、再びビジターたちとの激しい戦いへ。人類とビジターの間に生まれたスターチャイルドの少女、エリザベス(ジェニファー・クック)は急激に成長し、大人の女性になり、人間の男性と恋に落ちる。またビジターの間でも、ダイアナにリディア(ジューン・チャドウィック)というライバルが現れ、権力を争うなど、SFアクションである基本設定に、愛の憎しみのドラマが加わっていった。マイク役のマーク・シンガーをはじめ、「V」のキャストのほとんどが引き続いて出演。