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宇宙大作戦/スタートレック」の生みの親が、TVプロデューサーのジーン・ロッデンベリーであることは良く知られているが、もう一人、“生みの母”が存在するのをご存じだろうか?「スタートレック」の米ファンサイトが、新しいファンの間では埋もれつつある、“生みの母”について詳しく紹介している。
その「スタートレック」“生みの母”とは、女性コメディアンのルシル・ボール。1950年代の人気シットコム「アイ・ラブ・ルーシー」の主演女優だ。ルシルのシットコムは、日本でも当時、NHKやフジテレビでも放送されていたから、海外ドラマ好きなら耳にしたことがあるかもしれない。
ルシルは、シットコムの女王だっただけではなく、TVプロデューサーとしての才能にも長けていた。「アイ・ラブ・ルーシー」の共演者でもあった夫のデジ・アナーズと制作会社デシル・プロダクションを設立。デジとの離婚後は、ルシルが経営権を買い取り、社長として手腕を発揮していた。
そして1960年代半ば、ハリウッドで最もパワフルな女性の一人として活躍していたルシルの元に、ロッデンベリーが「宇宙大作戦/スタートレック」の企画を持ち込んだ。すでにいくつかのTVネットワークや制作会社から断られていた企画だったが、ルシルはすぐに興味を示した。米NBCに売り込みをかけると、パイロット版の制作を受注することに成功。「スタートレック」シリーズの記念すべき第一作「
歪んだ楽園(The Cage)」はこうして誕生した。
しかし、この第一作の出来栄えにNBCは難色を示した。ここで再びルシルの敏腕が発動、異例のパイロット版第二作目が制作されることに。この第二作目「光るめだま(Where No Man Has Gone Before)」が採用され、「宇宙大作戦/スタートレック」シーズン1第3話として放送された。
デシル・プロダクションの当時の経理担当者は、「ルシルがいなければ、『スタートレック』は生まれていなかった」と証言する。パイロット版は2作とも当時としては破格の制作費が投入された。社長であるルシルが企画に惚れ込んでいなければ、制作されることはなかっただろう。また大スター、ルシルの押しの強さに、NBCが根負けしたのも、採用を決めたの理由の一つだったかもしれない。
のちにルシルは、デシル・プロダクションをパラマウント映画に売却した。同プロダクションが制作した「スタートレック」、「スパイ大作戦」や数々のシットコムは、現在のパラマウント映画を支える大きな柱となっている。
裏話だが、「宇宙大作戦/スタートレック」が宇宙を舞台にした壮大なストーリーであると、ルシルは最初気付いていなかったのだとか。“スタートレック(スターの旅)”なる題名から、第二次世界大戦時に活動していたU.S.O.(米軍の娯楽慰問団)の話と思っていたらしいのだ。
勘違いで選んでしまったものの、それが金の卵だったのだから、大スターの嗅覚恐るべしというべきか。また、「スタートレック」がそれほどの強運を持つ作品だったからこそ、50年以上も続く人気シリーズに成長できたのかもしれない。
<「startrek.com」 11月27日>