舞台人としても知られ、ブロードウェイデビューとなった「キャバレー」では、トニー賞も受賞している。演技はもちろん、歌や踊り、さらに脚本も手掛ける超器用なマルチタレントが、米誌のインタビューに答えている。
スコットランド出身のアランは、英国で俳優活動をスタート。90年代後半から活躍の場を米国に移している。当時、よく米国の俳優仲間から聞かれたのが、「ニューヨーク(ハリウッド)で仕事ができるようになるまで苦労したか?」。
ハリウッドには英語圏をはじめ世界中の才能が集まってくる。ライバルが増える状況に、少しでも溜飲を下げたい気分なのだろう。
けれど、アランの答えは「ノー」。器用すぎる男は初めから三顧の礼をもって迎えられていたのだ。
「僕はブロードウェイの主演(『キャバレー』)だったからねぇ。宿も一流ホテルを取ってもらえた。他の俳優には嫌われる答えだと分かっている。僕だって聞かれたくないさ」英国で積んだ経験は、米国でもそのまま通用した。唯一無二の個性派だから、映画にTVに舞台に今も仕事が絶えない。
それでも一つ自分のモノにできていないモノがある。それは「ダンス」。「僕に後悔があるとしたら、僕は一度も(本物の)ダンサーではなかったこと」
ミュージカルに出演しているのだから、もちろんダンスが苦手というわけではない。しかし、器用すぎる男だからこそ、自分に求めるレベルも相当高い。「自分がアーティストである限り、ストーリーテラーでなければならないと思うんだ。僕は作家だし、歌えるし、演技もできる。だけどダンサーは体全体を使って、ストーリーを伝えるんだ。僕はそれをいつも羨ましく感じていた」
このコンプレックスを、アランはついに克服しようとしている。2021年、舞踊劇の舞台に立つという。「僕は来年56歳になる。その歳でダンスのソロを踊ろうというのだから、冗談みたいな話さ」
アランが最後にミュージカルの舞台に立ったのは、2014年。50歳の時である。当時、「これで(踊るのは)最後」と感じていたという。それでも、TVや映画で忙しく活動するうち、ムクムクと芽生えてきたモノがある。“挑戦”という感情だ。
「アーティストは、なぜ失敗の可能性があるものに“挑戦”するべきだと考えるのか、分かるようになったよ」
ただでさえ得意でないダンス。歳を取って、ますます体が動かなくなったのも実感している。だからこそ“挑戦”しがいがあるのだ。
思えばあくなき“挑戦”を重ねてきたアーティスト人生、それがアランが器用すぎる男たるゆえんだ。
<「fortune.com」 2019年11月18日>