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クリミナル・マインド」でFBI捜査官のエミリー・プレンティスを演じるパジェット・ブリュースターは、レジェンドなシットコム「フレンズ」がデビュー作というラッキーな女優だ。しかしそんなパジェットにも、涙のオーディションという不遇の過去があったと、米オンラインサイトのインタビューで語っている。
“最悪の思い出”として振り返ったのは、1996年、パジェットが「フレンズ」に出演する数年前、サンフランシスコからロサンゼルスに活動の拠点を移した直後のことだった。サンフランシスコではいくつかの舞台を経験したパジェットだが、TVや映画での女優活動は無し。さあ、ハリウッドで頑張るぞと張り切った矢先の思い出だ。
「初めてのエージェントから幾つかのオーディションが送られてきたの。その日は1日に2つのオーディションが入っていたのよ。2つもいっぺんに!スターになっちゃうって舞い上がったわ」
今となれば笑い話だが、経験の浅かったパジェットはオーディションだけで役をもらった気分になっていたのだ。
「1つ目のオーディションは売春婦役だったわ。35歳までの女優が通る道よね。そこで私はハリウッド大通りの店で『プリティ・ウーマン』さながらに、フェイクレザーのブーツにホットパンツを買ったわけ」ジュリア・ロバーツが演じた売春婦になりきり、1つ目のオーディションは完了。
2つ目はナニー(子守り)役のオーディションだから、上品にローラ・アシュリーのドレスなんてどうかしら、と考えた。そのためには、家に戻って、この売春婦の衣装から着替えなければならない。パジェットは当時運転していたオンボロのマイカーに乗り込んだ。
「とっても古いボルボに乗っていたの。燃料計も壊れてた。その車が、自宅へ戻る途中、止まってしまって」
原因はガス欠。「大通りの道をガソリンスタンドまで5ブロック歩いたわ。売春婦の格好をした女が歩いているのよ。他の車がひっきりなしにクラクションを鳴らしてくるし、もう最悪。だけど話はこれで終わりじゃない」
なんとかガソリンを手に入れ、車は再び動き出した。しかし、家に戻って、ローラ・アシュリーに着替える時間は無かった。
「次のオーディション会場に着いて、私はおそらく『こんな衣装で来るべきじゃなかったことは分かっています、ただ別のオーディションがあって着替える時間がなかったんです』とかなんとか言い訳したんだと思う。ローラ・アシュリーのドレスを着るはずが、ホットパンツからはみ出したお尻を隠しながらオーディションを受けるはめになったのよ」
気持ちはほとんど折れていた。それでもスターになれると信じていたから、オーディションから逃げることはしなかった。
「部屋に入ったら、キャスティング・ディレクターと他の数人が座っていたの。彼らのテーブルには大きなクッキーの箱が置いてあって、『食べながら(オーディションを)してもいいかな?』と聞いてきたの。その時は呆然としてしまったけれど、もちろんオーディション中に食べるなんてダメに決まってるわ。クッキーの音で気が散ってしまうもの。だけど、その時の私は『そんなの全然気にしない』って答えてしまったの」
場違いな衣装という引け目もあったのだろう、ノーとは言えなかった。オーディションでは渡されたシーンを全力で演じた。床に両手を付き、髪もかき乱れたまま渾身の台詞。なのに空気が違う。顔を上げた先にはクッキーをかじりながら、冷めた表情のキャスティング・ディレクターたちの姿が見えた。
「私は思わず口走ったの、『ダメみたいですね』って。そしたら全員が『そうだね』って、クッキーを食べながら言ったのよ」
屈辱でしかなかった。再びオンボロ車に乗って、家に帰る途中、涙が売春婦の衣装を濡らした。「家について、その日は泣き明かしたわ。残念なことに、泣きながら(オーディションから)家に帰ったのはそれが最後じゃなかったけどね。経験が浅いとよくある話なのかもしれないわ。だって、オーディションに行く前は『君こそ、この役にふさわしい。君に決まりだ!』なんて妄想してるんだから」
涙のオーディションを振り返り、当時の自分を褒めてあげたいと語るパジェット。涙とガッツの積み重ねが後の「フレンズ」や「クリミナル・マインド」につながったと信じている。
<「chicagotribune.com」 2月11日>