お先に拝見した。冒頭はいつも通り前回までのあらすじと番組題で、さて物語が始まると思ったら、おなじみのキャストが私服で次々と登場し、新型コロナウイルスの影響で3月中旬に撮影がストップしたと明かす。
制作が行われているニューヨーク州で非常事態宣言が出たのは3月7日。中断直前の撮影現場で俳優陣は手袋をし、本番だけ外したという生々しい証言も。だが撮影を再開できなくなったスタッフはロサンジェルスやロンドンの人々の力も借り、なんとかエピソードを完成させたという。
ここからが凄い。なんと未撮影の場面をアニメで作ってしまったのだ。全米TV界では30以上のドラマの制作が即中断となったが、アニメを使って撮影中のエピソードを完成させたのは当番組だけだ。
そもそもドラマとして非常に珍しい試みだが(「シンプソンズ」のようにアニメのキャラと実写映像を合成させた例はある)、映画『キル・ビル Vol.1』の影響があったのかもしれない。
声優は本来のキャストで、彼らは自宅で声を収録。そして撮影済みの実写の場面とアニメで描かれた場面(合計・約20分)がほぼ交互に連続するが、アニメの場面は大人向けコミック、グラフィックノベル風。効果音が画面に文字でも出たりと(昔のドラマ「怪鳥人間バットマン」風?)、これはこれでカッコいいのだから大したもの。
米国だけでなく世界中で人気の作品なので、とにかくこのエピソードを完成させた番組関係者たちの執念は称賛すべきだ。ラストのある仕掛けにはドラマを超えた感動すらこみ上げる。このシーズン、実はあと3話あったが決定したシーズン8で作られる。
ちなみに新型コロナウイルスの別名は“COVID-19”。このエピソードが本シーズンの第19話なのはどんな偶然か。これもレッドが黒幕だったりして!?
【アメリカTVライター 池田敏 2020/7/31】
池田敏:海外ドラマ評論家。海外ドラマのビギナーからマニアまで楽しめる初の新書「『今』こそ見るべき海外ドラマ」 (星海社新書) 発売中。