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クリミナル・マインド」で伝説のFBIプロファイラー、ロッシを演じるジョー・マンテーニャは、長年の芸能キャリアを第一線で過ごす名優。その名優の親友の一人が「刑事コロンボ」のコロンボ刑事で知られる、故ピーター・フォークだという。
二人は1985年の舞台「グレンギャリー・グレンロス」で共演。半年間、全米をツアー興行するうちに親交を深め、「友情は彼が亡くなるまでずっと続いた」(ジョー)仲になった。ジョーが、ピーターについて思い出すのは、彼が決して“コロンボ刑事”と同一視されることを厭わなかったこと。「たいていの役者は当たり役を引き受けたことを後悔するもんなんだ。たとえば、キャロル・オコナーは、『All in the Family』(1970年代に大ヒットした米シットコム)に出たことで、その役名のアーチー・バンカーで名指しされるのを嫌がった。彼の場合は、役とは正反対の人柄だったから、特にそう思ったんだね」
ジョーが忘れられないのは、そのツアー中の、ある日のこと。「僕らが舞台を終え、劇場を出た時、外には数人のファンが待ってくれていた。その中の老婦人が『ああ刑事さん、刑事さん』って声をかけてきた。ピーターはすぐに気が付いた。それどころか喜んでさえいたんだ。彼は『僕のことをコロンボだと覚えてくれたのなら、それでいい』ってね」ピーターも、ジョーと同じく長いキャリアを持つ名優だ。アカデミー賞にも2度ノミネートされ、「刑事コロンボ」以前にもエミー賞を受賞している。決して「刑事コロンボ」で売れた俳優ではなかったのだ。もちろん、オレはコロンボじゃないと老婦人を突き放すこともできただろうし、ジョーク混じりにたしなめることもできたであろう。しかし、ピーターは優しく受け入れたのである。
友の寛容にジョーは感服した。だから2011年にピーターが亡くなった時、ジョーは死を経ても変わらぬ友情を誓った。「彼はウォーク・オブ・フェイムに自分の星を持っていなかったんだ。70年代に一度、その機会があったらしけれど…」映画の都ハリウッドを東西に走るハリウッド大通りには、ウォーク・オブ・フェイムと呼ばれるスターの名前を刻んだ星型が埋め込まれている。ごく限られたハリウッドの大スターにのみ与えられる名誉の象徴だ。誰もが焦がれるはずの名誉をピーターは一度は断った。ピーターらしいといえば、そうなのか。けれどハリウッドに一生を捧げた者同士、親友だから、晩年の心変わりは十分ありえるはずだとジョーは思った。「ちょうど僕の隣が空いていた」すでにウォーク・オブ・フェイムに自分の星を持っていたジョー、親友の星をその隣に刻みたいと管理者に掛け合った。ピーターの名声が足りないわけはなかった。
「僕らはそういう仲なのさ。これから永遠に隣同士、ハリウッドの星であり続けるんだ」
コロンボとロッシ。ハリウッドで二人の星を見かけた「クリミナル・マインド」のファンが、そう叫んだとしても構わない。ジョーはきっと喜んで受け入れてくれるはずだ。
<「looper.com」 11月6日>