才能あふれる若者が、既に自分の立場を確立した大人を批判することは、今も昔もよくあること。「
ベター・コール・ソウル」のボブ・オデンカークもその例外ではなかったという。
「ブレイキング・バッド」「ベター・コール・ソウル」で、悪知恵の働く弁護士ソウル・グッドマンこと、ジミー・マッギルを演じるボブ。ユーモラスな演技を得意とするボブは、俳優として頭角を現す以前、地元シカゴで駆け出しのコメディアンとして活動していた。そこで出会ったのが、米NBC「サタデー・ナイト・ライブ」のコント作家兼コメディアン、ロバート・スミゲル。ロバートを頼りにニューヨークへ出たボブは「サタデー・ナイト・ライブ」のコント作家として採用された。その時、弱冠25歳。「サタデー・ナイト・ライブ」はビル・マーレイやエディ・マーフィといったスーパースターを生み出した、世界で最も有名なコメディ番組だ。若くしてそんな番組に採用されたボブは、たちまち天狗になってしまったらしい。
「あの頃、僕はすごく嫌な奴だったよ」と、インタビューで懺悔するボブ。(自分が誰よりもおもしろい)そんな生意気盛りの新人作家は人の言葉に耳を傾けなかった。「すごくウザかったろうね。文句ばっかり言ってる作家だったんだ。とりわけ権威というものに反抗していたから、番組にとっては面倒な奴だったろう」 自分の才能に溺れていたから、周囲のアドバイスも愚かに思えた。「サタデー・ナイト・ライブ」のクリエーターで名物プロデューサーのローン・マイケルズにさえ、しばしば敬意を欠いた。
「僕はローン(・マイケルズ)に対し上司として接していた。ただし、くだらない仕事を押し付けてくる上司という意味さ。何が面白いか説くなんて、お前は何様だ、なんて思ってたんだ」 それでも若い作家の生意気など慣れっこだったのだろう、マイケルズはボブの軽蔑さえも見て見ぬふりしていた。それどころかボブに「サタデー・ナイト・ライブ」で4年間、作家の仕事を与えただけでなく、時に出演者としてコントを演じることも任せてくれたのだ。この時の演じる経験が快感だったのか、「サタデー・ナイト・ライブ」の職を辞した後、ボブは本格的に俳優を志す。そして離れてみて初めてマイケルズの偉大さを知ったという。
「彼は偉大なクリエーターだよ。『サタデー・ナイト・ライブ』を立ち上げ、今も全体を監修しているわけだからね」 「サタデー・ナイト・ライブ」以降のボブの恵まれたキャリアを見返せば、その自信は過信であったとは言えない。けれど、ボブも58歳。若き日の生意気を反省する歳になったのだろう。手綱を緩めるつもりはないが、利口にもなった。そして今も一線で「サタデー・ナイト・ライブ」の指揮を執るマイケルズへの敬意はより深まっている。
<「uproxx.com」 3月9日>