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ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則」のハワード・ウォロウィッツ役でおなじみの米国人俳優サイモン・ヘルバーグが、映画出演のためにフランス国籍を取得していたことが分かった。「たいしたことないさ」と事も無げな様子で英オンラインサイトの取材に答えたサイモン。「僕は正式に国籍を変えた、フランス国民になったんだ」
オリンピックやW杯に出場するため、国籍を変えたアスリートの話は聞いたことがあるが、なんと映画出演のためにサイモンは米国民からフランス国民になったというのだから前代未聞だ。サイモンが国籍を変えてまで出演したかった映画とは、レオス・カラックス監督の『アネット』。アダム・ドライバー、マリオン・コティヤール主演のミュージカル作品だ。
「レオス(・カラックス監督)は天才だ。まるで魔術師みたいだよ。彼と(脚本の)スパークス、そしてアダムとマリオンが一緒なんだ。こんなことは滅多に起こるもんじゃない」『ボーイ・ミーツ・ガール』などで知られるカラックス監督といえば、現代フランス映画界の奇才であり、同時に寡作の人でも知られる。そのカラックス監督が9年ぶりに発表した長編映画が『アネット』、初の英語作品でもある。
「レオスはあまり映画を作らないからね。オリンピックより稀なくらいだ。僕は彼とスパークスの大・大・大ファンだから、この機会を逃がしたくなかった」サイモンによれば、『アネット』製作にあたり、EU(欧州連合)からの資金援助を必要としていたという。その条件として、EU内の国籍を持つ出演者やスタッフを一定数確保する必要があった。偶然にもサイモンの妻、女優ジョスリン・タウンはフランス系米国人として生まれ、現在はフランス国籍を取得している。二人の間にできた子供たちもフランス系の学校に通う。すでにサイモンは限りなくフランスに縁のある生活を過ごしていた。
カラックス監督の映画に出演できる千載一遇のチャンスに、サイモンはフランス国籍取得を決めた。驚くのはその時点で、サイモンは役を手中にしていなかったという。「もし僕が役をもらえなかったとしても、この映画のためにチャレンジしたいと思ったんだ。それくらい一生懸命だった。上手くいくかどうか全然分からなかったけれど、やって良かったよ。価値のあることだと思っている」
実はこの話にはオチがある。フランス人女優マリオンがキャスティングされたことによりEUの条件はクリアされていた。つまりサイモンがフランス国民になる必要はなかったのだ。いささかやりすぎとも思える一件だが、サイモンに後悔はない。「ある意味、芸術家らしい行動なんじゃないかな。(カラックス監督は)芸術のために僕らに全てを捧げて欲しかったんだろう」
カラックス監督にとっても、サイモンにとっても、その努力は報われたといえるはずだ。『アネット』は、2021年7月に開催されたカンヌ国際映画祭にオープニング作品として上映され、喝采を浴びた。そのレッドカーペットをサイモンはカラックス監督やアダムと共に誇らしげに歩んだ。「米国を裏切ってしまったかな」とジョークを飛ばすサイモン。貪欲にこれからも俳優として芸術に身を捧げる。
<「uk.news.yahoo.com」 9月3日>