今や、世界を引率するホラー・クリエイターの一人となったジョーダン・ピール。そのジョーダンが、1950年代後半から60年代にかけて放送された伝説のSFホラー・アンソロジー「
トワイライト・ゾーン」のリブートを手がけるにあたり、米紙のインタビューを受けている。
ホラー映画に旋風を巻き込み、時代の寵児とされるジョーダンだが、頭角を現したのはコメディだったことはよく知られている。冠コメディの「Key & Peele(原題)」は5シーズン続いた人気番組だった。ジョーダン自身、その経歴から「トワイライト・ゾーン」でホスト・ナレ―ターを務めることには抵抗があったとか。オリジナルでは、同作の脚本も手がけていたロッド・サーリングが務めた。ピリリと皮肉を効かせることはあっても、決してワハハの笑いではなかった。「トワイライト・ゾーン」へのいざないがサーリングの仕事だった。
「最初に気になっていたのは、僕のお笑いのイメージが強すぎるんじゃないかってこと。それだと内容の重みがなくなってしまう」 幸いにも『ゲット・アウト』や『アス』といったジョーダンが生み出した大ヒット・ホラー作品は、コメディアン監督のイメージに邪魔されることはなかった。周囲の説得もあってジョーダンは考えを変えた。 「深く思いつめるのを止めにしたんだ。サーリングの声のトーンは継承したいと思ったけれど、物まねにはしたくない。彼と同じことをしたって意味がないからね。僕は僕自身でいたい」 コメディとホラーに通じるものがあるとすれば、それは視聴者の裏をかけば良いということ。 「視聴者の考える次の展開、その裏をかくんだ。彼らはそれを喜んでくれる」 コメディアンの予想外の一言や行動で視聴者はどっと笑う。ホラーでは、「まさか」の展開が視聴者をぞくっとさせる。
高校時代から監督志願だったジョーダンの創作テーマはダブル・アイデンティティ。そのまま訳せば「二重人格」だろうか、ジョーダンはずっと己の中にジキルとハイドを生み出したいと考えていた。 「僕の作品は全て人間のダークな部分を描いている」とジョーダン。スタンダップコメディアンとしてステージで飛ばしたジョークから、「トライライト・ゾーン」の各エピソードに至るまでの、自身の創作における共通テーマを明かす。 「僕らのDNAには邪悪な部分が織りこまれている。人間は進化して、たいていの場合、善いことを選択するようになったけれど、完全ではない。僕らはいつも心のどこかに邪悪を抱えている」
普通の日常からひょっこり現われる邪悪。ゾンビやヴァンパイアは登場せずとも、とびきりの恐怖を生み出すのは人間だ。それがジョーダンの考えるホラーなのだ。
<「nytimes.com」 2019年3月26日>