年末も近づくとハリウッドでは来年早々に行われるゴールデングローブ賞やアカデミー賞、その他数々の賞レースに向け、各製作スタジオや放送ネットワークなどによるPR合戦が熱を帯びてくる。 賞を受賞できれば、その作品、出演者の知名度は一気に上がる。さらに受賞は、優秀とのお墨付きをもらったようなもの。どんな人気者だって、ベテランだって、「あなたはこの一年誰よりも素晴らしいパフォーマンスをした」と褒めてもらえるのは嬉しいに違いない。 そんなハリウッドの賞レースにちょっぴりと冷や水を浴びせるようなコメントを残しているのが、「
NUMBERS 天才数学者の事件ファイル」のピーター・マクニコルだ。
ピーターといえば、「シカゴホープ」「アリー・myラブ」「Veep/ヴィープ」「CSI:サイバー」など、人気TVシリーズに多数出演。どこにいても目立たずにはいられないシーンスティーラー(名脇役)として息の長い俳優だ。ピーターはこれまで、エミー賞に4回ノミネートされ、うち一回の受賞歴がある。
「アリー・myラブ」で受賞した2001年の同賞助演男優賞の思い出を、ピーターはインタビューで明かしている。同じカテゴリーには共演者のロバート・ダウニー・Jr.もノミネートされていたという。「ロバートが受賞するもんだと思い込んでいた」とピーター。「アリー・myラブ」の共演者同士、授賞式会場での席も近かった。「彼は僕の隣に座っていたんだ。そこで僕は彼に5ドル札をしのばせ、受賞スピーチで僕の名前を挙げておくれと頼んだ」 ところがフタを開ければ、受賞の名誉はピーターに。一番驚いたのは当人だ。
「参ったよね。記憶は定かではないんだけど、確か僕は小さなメモをポケットに入れていた。万が一受賞したら、スピーチでお礼を言うべき人たちの名前を書いておいたんだ。ところが(名前を呼ばれて)ステージに向かって歩きながら、ポケットを探ったけれど見つからない。だからスピーチは完全にアドリブさ、本当に頭は空っぽだったよ」 そのスピーチでロバートの名前を挙げたかはさておき(実はロバートの名も主演のキャリスタ・フロックハートの名前も言ってない)、「心底驚いたけれど、とても光栄に思っている」と今も、俳優ピーター・マクニコルにとってエミー賞受賞は名誉である。
しかし同時に、賞が仕事を持ってきてくれるわけではない、とピーターは冷静だ。「授賞式が終われば、それまでなのさ」とピーター。どんなに楽しいお祭り騒ぎも朝は必ずやってくる。 「次の日がくれば、また僕らは次の仕事を探す毎日に戻るんだ。賞が獲れたからって、仕事に結びつくわけじゃない。僕だけの話かもしれないけれど」 用心深く、あくまでも自身の経験談だと念を押す。ピーターの場合、エミー賞を獲ったからとて、オファーされる役が変わるわけもなく、それまでどおり不安定な俳優人生が続いているという。 仕事が絶えずオファーされることが俳優の最高の喜びならば、ピーターはこれまで30年以上もその喜びを甘受してきたエリートだ。エミー賞受賞がもたらしたものが、名誉だけだとしても構わない。名誉をポケットにピーターはこれからもエリート街道を歩んでいくことだろう。
<「goldderby.com」 2019年9月12日>