本作は、スタジオで一般人が収録を観覧し、その笑い声が聞こえる“シットコム”(シチュエーションコメディの略称)。これが米国で人気が高かった理由だが、日本では生放送の“バラエティ”が支持されたのに対し、米国ではニュースやスポーツ中継を除き、放送事故のリスクをはらむ生放送をTV局が歓迎しなかったという背景がある。だから作り込んだ台本で、俳優陣がユーモラスに演じる“シットコム”が米国TV界では主流に。
しかし米国の視聴者たちの価値感も多様化し、「フレンズ」「Hey!レイモンド」あたりを最後に“シットコム”は終わると考えられた。しかし時代の最先端を行くオタクたちを登場人物にする、斬新なアプローチの「ビッグバン★セオリー~」は“シットコム”自体を延命。その後、ヒット作「フルハウス」は「フラーハウス」として復活したが、「ビッグバン★セオリー~」の影響は大きいと筆者は信じる。オタク(マニアック)なネタが多いコメディとあって「ビッグバン★セオリー~」は情報量が多く、日本人に分かりやすい翻訳で声優陣が熱演した“日本語吹替版”(二カ国語版の主音声)もありがたいが、コロナ禍になってネットを通じ、英語で話す米国の出演陣・ファンの声に接する機会が増えた人は増えたのではないか。また、“字幕版”に接し、耳で生の米国英語を聞き、その意味を字幕で確認することで英語学習ができる点もシットコムはかなり有効。
ある年、全米TV界で最も稼いでいる男優ランキングベスト5の内4人を、本作のジョニー・ガレッキ(レナード役)、ジム・パーソンズ(シェルドン役)、サイモン・ヘルバーグ(ハワード役)、インド系のクナル・ネイヤー(ラージ役)が占めたこともある。今からでも遅くない。この全米大ヒットドラマの魔法にふれたい。
【アメリカTVライター 池田敏 2023/5/31】
池田敏:海外ドラマ評論家。映画誌「スクリーン」などに寄稿し、TV・ラジオで出演や監修をすることも。著書は「『今』こそ見るべき海外ドラマ」(星海社新書)など。