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レイ・ドノヴァン ザ・フィクサー」主演のリーヴ・シュレイバーは、TV、映画でのキャリアのみならず、米ブロードウエーの演劇でもトニー賞助演男優賞を受賞するなど舞台俳優の一面を持っている。そのリーヴが8年ぶりに出演したブロードウエー演劇「Doubt: A Parable(原題)」で大きなトラブルに見舞われたという。一時的ではあったが、急性記憶喪失の症状に陥り、その日の舞台を休演してしまったのだ。
後日、リーヴが米トークショーで語ったところによれば、公演中のある日、酷い頭痛を感じたのが悪夢の始まりだったとか。直感的に(何か起こりそうだ)と思ったものの、舞台は待ってくれない。舞台袖で同じく主演の女優と顔を合わせたリーヴ、そこで彼女の名前を思い出せないことに気が付いた(答えはエイミー・ライアン)。
さらに舞台人の間でよく使われる、ジンクスのような言い回し「Break a leg(幸運を祈る!)」さえ、どうしても頭に浮かばなかったとか。
不安に駆られたリーヴは舞台監督に不調を訴えた。しかし開演時間の直前、とにもかくにも舞台の幕は上がった。
「なんとかやってみようと、最初の6,7行を口にすることは出来た。けれど、台詞と演技がバラバラだったんだ。頑張ってみたが、どうにもならない。もがけばもがくほど、台詞は頭から消えていった」
舞台に立ったリーヴの目の前に広がっていたのは真っ暗な観客席。芝居中なのは分かっていたが、もはや何の舞台に立っているのかも分からなくなっていたという。
もう限界。
途中から、代役がリーヴの穴を埋めた非常事態。控室に医師の友人が真っ青な表情で飛び込んできたことは覚えていた。
「脳卒中」
誰が口にするまでもなく、リーヴ当人の頭に浮かんでいた病名。
しかし、飛び込んだ病院のMRI検査では異常は見つからなかった。診療に当たった神経外科医の口からは「一過性全健忘症」と耳慣れない診断が下された。
「一過性全健忘症」とは一時的に記憶が失われる症状で中高年に多く発症する。激しい運動やストレスが原因とみられているが、片頭痛が引き金となることもあるという(アメリカ国立医学図書館資料より)。
リーヴの発症は、公演前の酷い頭痛が原因だったのだろう。幸いにも翌朝、起床した際には全ての記憶はよみがえり、台詞にも問題はなくなっていたという。
「劇場に電話をして、マチネ(昼公演)に出ると伝えたんだ。医者からはまだダメだと言われていると猛反対されたけど、僕自身、完全復活したと確信したかったのさ」
その後の公演はスムーズに進んだことで、「まるで僕がずる休みしたくて、嘘を言ったみたいに思われたかもね」とリーヴは苦笑い。
奇妙な一夜の経験はベテランに体のケアの大切さを再認識させた。どんな実力派だって、誰だって体のトラブルはつきものなのだ。
<「usatoday.com」 4月17日>