アカデミー賞作品賞受賞作『オッペンハイマー』の好演で再び売れっ子となっているデビッド・クラムホルツ。「
NUMBERS 天才数学者の事件ファイル」でのちょっぴりエキセントリックな天才チャーリー役でファンになったという人も少なくないだろう。
SNSで自虐的な投稿を連発するなど、役に負けず劣らず、強い個性が愛されるデビッド。その言動は、ある13年前の出来事が関係しているのかもしれない。デビッドが米エンタメサイトのインタビューに答えている。
2011年、デビッドは進行性の甲状腺がんと診断された。そのがんは複数箇所のリンパ節に転移していたという。がんが見つかったのは、全くの偶然、そして幸運だった。
「僕は本当にラッキーだった。マッサージに行って、気づいてもらえたんだからね」
当時、デビッドはアリゾナ州のスパで定期的にボディマッサージを受けていた。その日、なじみのマッサージ師は全ての施術を終えた後、突然、首のマッサージを始めた。
「なぜ首をマッサージしてくれたのか、僕は知らない。彼女は、その時『首にしこりがありますね』と言ったんだ。彼女は僕に何かを伝えようとしてくれたのかもしれない。だけど僕は大事には思わず、聞き過ごした」
マッサージ師は常連客の体を覚えていたのだろう、(何かが違う)と。けれど医療従事者でない彼女にはつぶやくことでしか、デビッドに知らせる手段はなかった。
「それから二カ月して、僕は健康診断を受けた。毎年のことだ。かかりつけの医師は『君の体に異常はなさそうだけど、最後に何か言いたいことがあるかい?』と聞いてきた。僕はマッサージ師の言葉を思い出したんだ。医師は僕の首を触診すると、しこりが二つあると言った」
健康診断で見過ごされていた、がん。もしも二カ月前にマッサージに行かなかったら、もう今は生きていないんじゃないか、本気でデビッドは考えている。
治療を受け、がんは完治した。治療から10年が経ち、再発していないとデビッドは自身のインスタグラムで発表している。
「がんの診断以降、仕事について考えすぎることを止めた」
これまで俳優として目指していた創造性、感受性への考え方が変わったのだ。それは一人の人間がコントロールできるものではないし、コントロールすべきものでもない。自分の仕事はあくまでも人間性の模倣なのだと。
デビッドはこれからも俳優を続けるつもりだ。偶然によって長らえた命、気張ることなく、人間を演じてゆく。
<「rogerebert.com」 3月27日>