LAW & ORDER

犯罪サスペンスの最高峰!メインシリーズがついに登場!

コラム

LAW&ORDER アクター・コラム

Vol.1 ジェリー・オーバック

レニー・ブリスコー刑事=ジェリー・オーバックよ、永遠に!

アメリカではケーブル局の再放送を含めて、「『LAW & ORDER』を放送していない日はない」と言われている。まるで都市伝説のようにも聞こえるが、これは大げさでも何でもなく事実である。もちろん正式に番組表を調べたわけではないが、00年前後以降、筆者が取材や旅行で渡米した際には確実にそうだと実感している。米テレビでは各時間帯の編成の色分けが明確で、23時を過ぎると一斉に日本でいうところのバラエティのようなトークショーになってしまう。ここでドラマ好きの強い味方となるのがケーブル局の再放送だ。TNTやA&Eほかチャンネルをザッピングすれば、深夜でもどこかで「LAW & ORDER」及びそのフランチャイズを観ることができる。これはファンにとっては嬉しい限りで、例えば本放送の「LAW & ORDER:性犯罪特捜班」を観た後、「LAW & ORDER:クリミナル・インテント」→「LAW & ORDER:性犯罪特捜班」→「LAW & ORDER」と、ついつい夜更けまでケーブル局を観てしまうのが筆者の渡米時の習慣となっている。

そんな中でも思い出深いのが、「LAW & ORDER」の名物刑事レニー・ブリスコーである。地道な捜査が信条の昔堅気のブリスコーは、恐らく米テレビ史上でも最も愛された刑事のひとりだろう。演じるジェリー・オーバックは『シカゴ』や『42ndストリート』など、ブロードウェイではスタンダードとなっている数々の名作の初演時のキャストとして知られるスーパースターで、ミュージカルファンにとっては夢のような存在だった。ブロードウェイに遊びに行くと、ブリスコーとパートナーのエド・グリーンの横顔が向きあい、その間に「LAW & ORDER」のタイトルが書かれた巨大なビルボードを観るたびに、この地を舞台にした本シリーズがいかにマンハッタンの誇りであるかを実感させられたものだ。

1992年のアカデミー賞授賞式では、給仕頭で蝋燭に姿を変えられたルミエールの声を演じたディズニーアニメ『美女と野獣』の歌曲賞候補となった「ひとりぼっちの晩餐会 (Be Our Guest)」で、ジェリーが素晴らしいパフォーマンスを見せていた。「LAW & ORDER」に登場した時点で既に舞台の第一線からは退いていたが、一度は舞台で彼の姿を観てみたいと思ったものだった。そんな中、2004年12月に突然の訃報を聞いた時はにわかには信じ難く心から残念に思った。翌年、マンハッタンを訪れた際に、番組の出演者たちが刑事部屋を談笑しながら去ると、カメラがデスクの上のブリスコーの名札を大写しにし、そこに「私たちは決してあなたを忘れない」といったテロップが出る映像をテレビで観た時は、改めて彼の不在を寂しく思い涙がこぼれた。

2005年のトニー賞授賞式では亡くなった関係者たちを偲ぶイン・メモリアムで、トニー賞に輝くジェリーの顔が映し出されると同時に「LAW & ORDER」で長年パートナーの刑事エド・グリーンを演じたジェシー・L・マーティンが、ミュージカル『シカゴ』から「Razzle Dazzle」のパフォーマンスを披露した。これはジェリーが同作の初演時に弁護士ビリー・フリンを演じた際の代表的な楽曲で、自身もミュージカル『レント』ほかブロードウェイで活躍するジェシーの涙をこらえるかのような歌声は「LAW & ORDER」のファンにとってもまた忘れ難い瞬間となった。

これほどにも才能があり、人々に愛されているブリスコー刑事の勇姿を長らく日本では観ることができなかったことは、いち海外ドラマファンとして非常に残念なことに思っていた。それゆえ、ついにこの伝説のシリーズの全シーズンが日本上陸を果たしたことに深い感慨を覚えるのだ。

Vol.2 クリス・ノース

クリス・ノースとといえば、日本ではTV&映画「SEX AND THE CITY」の主人公キャリーの恋人ミスター・ビッグ(映画版でようやくフルネームが明かされた)が有名だ。裕福で洗練されたいい男で、女性からすると"ずるいな?"と思わせる言動も憎みきれないチャーミングな大人の男ぶりが妙齢女子の人気に火を付けた。TVシリーズではとにかくキャリーとの恋のゆくえがファンをやきもきさせたが、映画版第1弾ではついに結婚。続編では、さすがのビッグも結婚生活に疲れた!? 家庭人の一面も見せてちょっぴり泣けたが、最近では「グッドワイフ」でまたもダンディだけど、これまた男のズルさを巧みに生かしたピーター・フロリック役を好演している。

'80年代から映画やTVで活躍してきたノースだが、そんな彼の代表作の一つにして俳優としてのルーツとも言うべき作品が「LAW & ORDER」である。1990年?1995年の5シーズンにわたってニューヨーク市警の刑事マイク・ローガンを演じたノースは、この番組のヒットによって知名度をあげると共にクオリティの高い作品に関わることでキャリアを磨いた。当時30代半ばのノースは明らかに目を引くイケメンぶりも際立つが、ちょっと短気で軽めなところが感じられつつも地道に捜査を重ねるデカぶりが、意外なほどのハマリ役。特にシーズン3から登場するジェリー・オーバック演じる刑事レニー・ブリスコーとのケミストリーは素晴らしいので、ぜひこちらのコンビも観て欲しい。またシーズン1の第3話では「SATC」のミランダことシンシア・ニクソンが、シーズン3の第16話には「グッドワイフ」で夫婦を演じるジュリアナ・マルグリーズがゲスト出演。今から20年近く前に、この2人が同じ番組に出ているのを観るのは感慨深いものがある。

それにしてもノースには、ストリートでも華やかなナイトシーンでもマンハッタンの風景がしっくりくるのだ。

Vol.3 マイケル・モリアーティ

検察側の顔といえばマッコイを思い浮かべる人も多いと思うが、初期の「LAW & ORDER」を牽引したのは間違いなくストーンである。しばしば強引で派手な弁舌もインパクトのあるマッコイに対して、ストーンはまさに"静"のイメージ。澄んだ瞳でじと相手を見据えながら、静かな物言いの中にも有無を言わせない力強さを発揮する仕事ぶりは回を重ねるごとにじわじわと味わい深く、マイケル・モリアーティの演技力に脱帽するしかなくなってしまうのだ。

本作の他の多くの共演者、ゲストと同じく、モリアーティのルーツも舞台である。1960年代の終わり頃から小さな役でブロードウェイの舞台に出演し、1971年には舞台"The Trial of The Catonsville Nine" で印象に残る役を演じるも公演は短命に終わった。実はこの作品にはマッコイ役のサム・ウォーターストンが出演していたのが「LAW & ORDER」のファンにとっては興味深いところ(映画俳優ジェームズ・ウッズなども出演)。ブレイクとなったのは1974年の舞台 "Find Your Way Home"。トニー賞ほかに輝き一気に演技派としての知名度を得たわけだが、同年はモリアーティにとってはまさに当たり年でTV映画「ガラスの動物園」ではエミー賞を受賞したのだが、主役のキャサリン・ヘップバーンの息子役がこれまたサム・ウォーターストンで、その同僚役を演じたのがモリアーティだった。

ほかにミニ・シリーズ「ホロコースト 戦争と家族」(78)や、ジェームズ・フランコがジェームズ・ディーンを演じたTV映画「DEAN/ディーン」(01)でエミー賞を受賞している。映画ほかの出演作などに触れる余裕がないので割愛するが、要はロンドンの名門校で演技を学び、舞台で輝かしいキャリアを持つモリアーティの演技に視聴者が引き込まれるのは当然といえば当然なのだ。

同じブロードウェイの実力者同士の共演という視点から観ても、「LAW & ORDER」には舞台上での真剣勝負を観るかのような名対決シーンはたくさんある。ストーンが辞職を決意するシーズン4最終話のゲスト、アリソン・ジャニーとの行き詰まる駆け引きも見逃せないが、個人的に最も圧倒されたのがシーズン4の第15話でのフィリップ・ボスコ演じる弁護士ゴードンとお互いに一歩も引かない法廷での対決だ。筆者は04年に「12人の怒れる男たち」、05年にミュージカル「チキ・チキ・バン・バン」などでボスコの舞台を観ているが、老獪なゴードンを不遜な態度で演じる大物感のあるボスコに対して、モリアーティもヒートアップしたかのように、ストーンがいつになく熱くなる姿は思わず手に汗を握ってしまう迫力だ。

ちなみに、モリアーティは1994年のリバイバル版ミュージカル『マイ・フェア・レディ』でヘンリー・ヒギンズを演じている(観たかった!)。プライベートでは時折バンクーバーの人気レストランRossini'sで"マイケル・モリアーティトリオ"としてジャズピアノを披露しており、演技だけでなく音楽的センスにも恵まれた人なのだった。

Vol.4 サム・ウォーターストン

20年の長い歴史の中で数々の名キャラクターが登場した「LAW &ORDER」だが、ジャック・マッコイなくしてこのシリーズは語れない。シーズン5からベン・ストーンに替わって登場したマッコイは、もちろん意図してのことだろうがストーンとは信念のあり方を含めて驚くほど違いが際立つキャラクターだ。

まず、トレンチコートをスマートに着こなしていたジェントルな雰囲気のストーンに対して、マッコイは見た目もどこか泥臭い。オフィスを出る時にはジーンズに着替えて冬はカジュアルなコートをひっかけて帰る姿といったら、法律オタクあるいは正義オタクとでもいおうか。初登場シーンでは新たなアシスタントのキンケイドとの会話の中で、「3人の補佐官と付き合い、そのうちの1人は元妻。外で出会う女性より彼女達が魅力的だっただけ」と悪びれもせず明かすあたりのやんちゃぶりも、日本での放送順にシーズン15~20から先に観ているファンにとっては感慨深いものがある。

脅し(?)のかけ方も違う。ストーンが人の心まで射抜くような鋭い視線をじっと投げかける一方で、マッコイは相手を威嚇するかのように目を大きく見開き常に挑戦的でアグレッシブだ。強引だろうと何だろうと自信満々に持論を展開し、基本的に声も態度もでかいのがマッコイである。しかし、この後「LAW&ORDER」がシリーズ最高の人気を獲得していく盛り上がりを見せることを考えると、このマッコイのある種の勢いが番組にスピード感とより一般受けする分かりやすいドラマチックな要素を加えたと言えるかもしれない。

そのマッコイがなぜ視聴者の心をこれほどまでにとらえるのかといえば、やはり法の僕(しもべ)としてのブレない姿勢だろう。「感情を優先させることは法の下では許されない」がモットーのマッコイは、非情とも思える戦略で臨むことも少なくない。刑事たちや検事の補佐官、あるいは陪審が被害者もしくは被告人に同情することがあっても、「犯した罪の責任はいかなる理由があろうとも必ず本人が負うべきである」とするマッコイの正論は、時に憎らしくもあるが番組の支柱となっている。報われないことも多い仕事だが、検察を辞めて弁護士として高額の報酬を得るかつての同僚に対して「地味だがやり遂げる」と、言い切るマッコイのかっこよさといったら!
そんなマッコイの珠玉の名言集は残念ながら割愛するが、顔を真っ赤にしながら名物とも言える長台詞を法廷で熱弁するマッコイ=サム・ウォーターストンの迫力は、吹替派の人も一度は字幕版で堪能して欲しい。

もちろん、いかなマッコイも後悔や苦い思いにやりきれない表情を見せることもある。初期のシーズンで印象的なのはシーズン6の第3話の死刑制度をめぐる事件。後期のシーズンでは、やはり地方検事に昇進して検察のトップに立ち、あれほど嫌悪していた政治の世界に足を踏み入れたシーズン18以降の数々のジレンマだろう。もっとも、どうあろうとマッコイは結局のところはマッコイであり続けるのだが。

演じるサム・ウォーターストンは、ストーン役のマイケル・モリアーティより約半年早い1940年11月生まれ。モリアーティと同じく舞台でキャリアを積み高い評価を受けており、ブロードウエイほかテレビなどでも2人は共演している。近作では、ウォーターストンは才人アーロン・ソーキンが手掛けるHBOの秀作シリーズ『The Newsroom』(2012年~)にレギュラー出演し、相変わらずの存在感を発揮していることを付け加えておく。

Vol.5 S・エパサ・マーカーソン

シーズン4から登場する、27分署の刑事達をまとめる警部補アニタ・ヴァン・ビューレン。最終となるシーズン20まで出演したS・エパサ・マーカーソンは、アメリカのTVドラマ史において最も長い期間、同一のアフリカン・アメリカンのキャラクターを演じた記録保持者だ。

1952年生まれのマーカーソンがTVに登場したのは80年代後半。国民的人気コメディ「コスビー・ショー」や人気子供向け番組「ピーウィーのプレイハウス」などにゲスト出演し、現在に至るまで「クローザー」(07年に3話ゲスト出演)や「私はラブ・リーガル」(12年に1話ゲスト出演)ほかコンスタントにTVに出演している。2005年のHBOのTV映画『ブルース・イン・ニューヨーク』では、エミー賞、ゴールデングローブ賞、全米映画俳優組合賞などに輝く栄誉。また映画の出演作も多く、公開待機作としてはスティーブン・スピルバーグ監督による話題作『Lincoln』、先頃他界したマイケル・クラーク・ダンカンと共演するアクション『The Challenger』など新作が複数控えている。しかし、マーカーソンといえば、やはり「LAW &ORDER」であろう。同作のフランチャイズ「LAW &ORDER:クリミナル・インテント」と「LAW &ORDER: Trial by Jury」、そしてTV映画版『 ロー・アンド・オーダー/切り裂かれた死体 』(98)にもヴァン・ビューレンとして登場している。

TVシリーズにおいて、あまりにも一つの番組、キャラクターのイメージが強いと、特に日本人にとっては「これ以外に何をやっているのだろう?」と思われることが少なくない。だが、往々にしてドラマで味のある演技を発揮する実力派は舞台でキャリアを築いている。本作には数多くの舞台のベテラン俳優が出演しているのはこれまでにも述べた通りだが、マーカーソンの舞台のキャリアもまた実に素晴らしいものだ。

演技を学ぶ前は大学でダンスを専攻していたというマーカーソン。ブロードウェイでレビュー形式のオリジナル・ミュージカル「Tintypes」(1980年10月23日~1981年1月11日)にアンダースタディー(代役)でクレジットされていたことを考えると、相当踊れたであろうことは間違いない。その後、トニー賞、ドラマ・ディスク・アワードほかの候補になり名声を確固たるものにしたのはオリジナルのプレイ「The Piano Lesson」(1990年4月16日~1991年1月27日)。チャールズ・S・ダットンと共演した本作は後にTV映画化されたが、こちらにはマーカーソンは出演していない。ちなみに舞台版でダットンのアンダースタディとしてクレジットされていたのは、当時40歳を過ぎていたサミュエル・L・ジャクソンだった。

もう一つの舞台の代表作は、やはりトニー賞ほかの候補になったプレイ「Come Back, Little Sheba 」(2008年1月24日~3月16日)。ウィリアム・インジの名戯曲のリバイバル版で、バート・ランカスターとシャーリー・ブースの共演で1952年の映画版『愛しのシバよ帰れ』ほか幾度も映像化されている人間ドラマの秀作だ。マーカーソンが舞台で演じたローラ役を映画で演じたブースは本作でアカデミー賞を受賞している。「LAW &ORDER」にレギュラー出演中だったため限定公演だったこの舞台について、マーカーソンは「いつも強く、権威のある役を演じることが多いので繊細な女性を演じるのは挑戦だった」と語っているが、確かにマーカーソンには毅然とした芯の強い役がよく似合う。

ほかにも舞台の経歴を挙げたらきりがなく、オビー賞やヘレン・へイズ賞ほか多くの賞にノミネートされ受賞を果たしている。映像作品に出演するかたわら舞台に立ち続けているシアター・ジャンキーのひとりなのだ。

ところで、マーカーソンは「LAW &ORDER」にレギュラー出演する前に、シーズン1の第17話でヴァン・ビューレンとは別の役でゲスト出演している。これは本作のジェリー・オーバックやジェレミー・シストなどとも同じパターンだが、マーカーソンが本作のお気に入りの一つとして、最初に出演したこのエピソードを挙げているのが面白い。

私生活では肺がんを克服した姉妹を持ち、肺がんの啓蒙活動に尽力したことで表彰されるなど人格者としてもリスペクトされている。強い信念と正義感を持つ気骨のあるヴァン・ビューレン役は、そうしたマーカーソン自身を色濃く反映したキャラクターと言えるのかもしれない。

実は番組が継続か終了するかに関わらず、シーズン20でマーカーソンは降板することを明言していた。そのため、シーズン20では「LAW &ORDER」には珍しくヴァン・ビューレンの個人的な問題に寄ったエピソードが盛り込まれている。結果として、長年番組に貢献したマーカーソンに花を持たせる形でシリーズが終了したことは、ファンにとっては非常に感慨深いものがある。

Vol.6 ベンジャミン・ブラット

「LAW &ORDER」シーズン6~9において、ベテランのレニー・ブリスコーの相棒としてマイク・ローガンに替わって配属された刑事レイ・カーティス。スペイン人と北米先住民のハーフという設定は、ペルー生まれの母親とドイツ人とイギリス人のハーフの父親を持つベンジャミン・ブラットのエキゾチックなルックスと上手くリンクしている。全20シーズンの中でも突出したイケメン枠代表のカーティスの登場は、インターネットなどに精通することから増加する一途のハイテク犯罪や、マイノリティーであることからヒスパニッック系の人口比率の増加による新たな米社会及びニューヨークが抱える問題(放送当時)をドラマで扱う上で実に有効に機能している。

1995年~1999年まで「LAW &ORDER」に出演し、その後『デンジャラス・ビューティー』('01年)や『キャットウーマン』('04年)といったハリウッド大作でメインキャストとしての出演が続き、国際的に知名度を得ることになったことを考えると、ローガン役のクリス・ノースと同じくブラットのキャリアもまた本作が転機となったと言えるだろう。もっとも、これもノースと同じパターンだがブラットの名前を聞いて「LAW &ORDER」を真っ先に思い浮かべる日本人はそうはいないに違いない。かくいう筆者もブラットといえば、人気絶頂期のジュリア・ロバーツと交際していた一連のゴシップがまず思い浮かぶ。当時、格上女優ロバーツの一目惚れ→猛烈アプローチから始まったロマンスは、世界中の映画ファンの注目を集めた一大事件だった。レッドカーペットなどで紳士的にエスコートする姿は、やっかみも手伝ってか"ミスター・ロバーツ"などと揶揄されたこともあったが、ロバーツの隣でスマートにふるまうブラットのイケメンぶりに心ときめいた女子も多かったはず。この恋は、すったもんだの挙げ句2001年に破局に終わったが、翌年には映画で共演した女優のタリサ・ソトと結婚。2人の子供を持つ良き家庭人として現在も幸せな結婚生活を送っているらしく、当時を知る者としては本当によかったなあとなんだかほっとするのだった。ちなみに「LAW &ORDER」シーズン9の第20話には当時恋人だったロバーツがゲスト出演している。

ところで『デンジャラス・ビューティー』のサンドラ・ブロックもブラットに熱い視線を送っていたようだが、俳優としてのブラットはこのグッドルッキングがキャリアのネックと言えるかもしれない。実際にメジャー作品では小さな役か人気女優のサポート、あるいは見た目の良さをアピールする役回りが多く、ブラット自身の評価が高い出演作は残念ながら多いとは言えない。今回出演作のリストを改めて眺めてみて、日本でもヒットした大作の中には正直どんな役で出ていたかすぐには思い出せないものもあった。近未来SFアクション『デモリションマン』('93年)はブロック演じる警部補の同僚で印象も強く、準主役とも言える『デンジャラス・ビューティー』の女好きだが頼れるFBI捜査官は魅力的だったが、当時熱中した『激流』('94年)はDVDで確認したところ1時間近く経過するまで登場しない役だったことを思い出した。こちらも大ヒットした『今そこにある危機』('94)も、改めて観てそうそう、この役だったのかと再認識した次第。また『2番目に幸せなこと』('00年)ではマドンナと、『キャットウーマン』ではハル・ベリーと共にラジー賞にノミネートされてしまうという不運もあった。

そう考えると俳優としての実力や魅力が発揮されているのは、メジャーではない作品の方に多い気がする。ヒスパニック系の青年たちの壮絶な人生を描く『ブラッド・イン・ブラッド・アウト』('93年)やラテン系アーティストを熱演した『ピニェロ』('01年)、『サムサッカー』('05)の自虐的な脇役もなかなかよかった。一方、近年のテレビでは元麻薬中毒者の実話を基にしたドラマ「The Cleaner」('08年-'09年)、リドリー&トニーのスコット兄弟が手掛けたミニ・シリーズのSF「アンドロメダ・ストレイン」('08年)で主演格。「プライベート・プラクティス」ではシーズン4の最終話から登場する医師ジェイク・ライリー役を好演している。しかし、やはり忘れてはいけないのは「LAW &ORDER」である。1999年度のエミー賞助演男優賞候補にもなったレイ・カーティス役は、家族思いで正義感が強く、イケメンであることを意識しつつも根が真面目なキャラクターはブラット自身を彷彿とさせる部分もある。昔ながらの捜査方法を貫くブリスコーとのジェネレーションギャップ、先輩後輩の関係性や茶目っ気のあるブリスコーとの対比も興味深く、ローガンやグリーンとはまた違った面白いパートナーシップとなっている。ブラットのキャリアもまた「LAW &ORDER」なくしては語れないのだ。

Vol.7 スティーヴン・ヒル

1990年~2000年まで10シーズンの長きにわたって、検察チームトップの地方検事アダム・シフを演じたスティーヴン・ヒル。シフはシーズン1のパイロット版にあたる第1話(本国では第6話として放送された)にのみ登場するアルフレッド・ウェントワースの後任として第2話から登場するキャラクターで、実際のニューヨーク郡の地方検事だったロバート・モーゲンソウをモデルとしている部分がある。モーゲンソウ本人がシフの大ファンだったと伝えられているが、リアリティを重視した本シリーズにおいてシフの極めて現実的、実務的な検事像は視聴者からも共演者からも非常に好感度が高く、愛されたキャラクターとして知られている。

1922年、ワシントン州シアトル生まれのヒルはロシア移民の息子で、本名はソロモン・クラコヴスキィー。小さい頃から演劇に興味があったが、高校卒業後は1940年?1944年まで予備役として海軍に従事した。その後、リー・ストラスバーグの名門アクターズ・スタジオの創設メンバーのひとりとして本格的に演技の道へ入ることになる。 デビューとなったのは、当時ブレイク前のマーロン・ブランドも出演していた1946年のブロードウェイの舞台「A Flag Is Born」の役名のない端役。1950年にジョゼフ・H・ルイス監督のノワールタッチのサスペンス『A Lady Without Passport』に脇役で出演し、本作が実質的なデビュー作といえるだろう。50年代?60年代はBムービーに脇役で出演する一方、キャラクターアクター(性格俳優)として「アンタッチャブル」や「ルート」、「ベンケーシー」、「逃亡者」と幅広いジャンルのテレビにゲスト出演。1965年にクリント・イーストウッド主演の「ローハイド」へのゲスト出演を経て、1966年に始まった大ヒットシリーズ「スパイ大作戦」のIMFの初代リーダー、ダン・ブリックスに抜擢された。
だが、これは海外ドラマファンには広く知られるところだが、ヒルはシーズン1で解雇されてしまう。一説には伝統的なユダヤ教徒であるヒルが安息日に仕事をすることを断ったため、あるいは撮影中に要求されたことを拒否したなど諸説あるが、とにかくシーズン1で降板したヒルはニューヨークへ引越し、その後約10年間は不動産業者として働くなど俳優業から遠ざかってしまった。ご存知のように「スパイ大作戦」のヒルの後任はピーター・グレイヴスで、彼が演じたジム・フェルプスは生涯の当たり役となった。

長いブランクの後、ヒルは1978年のミニ・シリーズ「King」で完全復帰。80年代は映画を活躍の主戦場とし、ウィリアム・ハート主演の『目撃者』(81)、ロバート・レッドフォード主演の『夜霧のマンハッタン』(86)、『アーノルド・シュワルツネッガー ゴリラ』(86)といったブロックバスター作品に数多く出演した。そして1990年より、久々の本格的なテレビシリーズへの復帰にして68歳で最大の当たり役を得た「LAW & ORDER」に出演。1998年と1999年に2度のエミー賞候補になったほか、アダム・シフ=スティーヴン・ヒルは再び全米のお茶の間に親しまれることとなった。
2000年に番組を降板したのは、俳優生活を引退して余生を楽しみたいという理由から。シフの降板は全ての共演者たち、とりわけプライベートでも親しかったサム・ウォーターストンらにショックを与えたといい、「ラリー・キング・ライブ」にはヒルと共にメインキャストが登場してみんなでお別れを告げたのだった。

名門アクターズ・スタジオ出身のヒルは、有名になる前のマーロン・ブランドやモンゴメリー・クリフト、ジーン・ハックマンらと共に活動していた。その俳優人生を振り返ると順風満帆とは言えないかもしれないが、「LAW & ORDER」時代にヒルは「キャリアの初期に比べて、今の方がはるかに演技を楽しんでいる」とコメントにしている。90年代もトム・クルーズ主演の『ザ・ファーム/法律事務所』(93)など大作に出演しているが、ヒルにとっての代表作はやはり「LAW & ORDER」なのだと思う。

Vol.8 ジル・ヘネシー

1993年~1996年のシーズン4、5、6に登場する、地方検事アシスタントのクレア・キンケイド。演じるジル・ヘネシーといえば、日本の海外ドラマファンにとっては法医学サスペンス「女検死医ジョーダン」(01-07)の主人公ジョーダン・カヴァナー役でおなじみだろう。頭脳明晰な女検死医ジョーダンは、科学を絶対視しているタフな女性だが、一方でセクシーかつ女性らしさも併せ持つキャラクターだ。ヘネシーの人気を決定付けたジョーダンのルーツは、「LAW & ORDER」のキンケイドに見ることができると言えるかもしれない。キンケイドはベン・ストーンジャック・マッコイの2人の違うタイプの上司を相手に一歩も引かず、理想主義者のフェミニストでハーバード大学法科大学院卒の才媛という役どころだが、ヘネシーはいかにも気の強いデキる女というより物腰はソフトで実に品良くエレガントに演じている。そんなキンケイドはジョーダンよりかなり控えめではあるが、共に芯も気も強いが女性らしさを失わないキャラクターは、インタビューやゴシップニュースなどから知ることができるヘネシー自身の個性をよく反映しているのではないかとも思う。

カナダのアルバータ州出身のヘネシーは、1968年生まれ。双子の姉妹ジャクリーン・ヘネシーと共にカナダの鬼才デヴィッド・クローネンバーグ監督のカルト作『戦慄の絆』(88)で双子を演じて映画デビューを飾った。1992年にはアメリカ映画『ロボコップ3』にマリー・ラザルス博士役で出演。カナダとアメリカの映画やテレビシリーズへのゲスト出演を経て、1993年からレギュラー出演した「LAW & ORDER」で知名度を得たわけだが、実は同じ年に始まった「X-ファイル」のダナ・スカリー役の最終候補にヘネシーは残っていた。もし...という仮定はあまり意味がないが、スカリーがヘネシーだったらどうだったろうと考えてみるのも興味深い。その後、アクション『クロスゲージ』(97)やラブストーリー『オータム・イン・ニューヨーク』(00)、アレック・ボールドウィン主演のTV映画『ニュルンベルク軍事裁判』(00)などに出演。01年からはドラマ「女検死医ジョーダン」の主演に抜擢され、6シーズンにわたるロングランとなり人気を確立した。近年ではHBOのダスティン・ホフマン主演、マイケル・マンが製作総指揮を務める意欲的なドラマ「Luck」(11)にレギュラー出演していたが、撮影現場における不運などが重なりシリーズ終了を余儀なくされたことは残念だった。その他、映画はスティーヴン・セガール主演の『DENGEKI 電撃』(01)、ジョン・トラヴォルタらベテランが豪華共演の快作『団塊ボーイズ』(07)などに出演している。

プライベートでは、00年に結婚した俳優のパオロ・マストロピエトロの間に2人の息子をもうけているヘネシー。ギターの腕前も有名で、18歳の頃には学費や家賃を稼ぐために地下鉄などでストリート・ミュージシャンをやっていたこともあったといい、現在も音楽活動は続けておりプロとしてアルバムもリリースしている。実はプロのミュージシャンを目指したことはなかったそうだが、11年のインタビューの中で「ストリート・ミュージシャンの仕事が一番好き」とヘネシー自身は語っている。11年のマイケル・クエスタ監督作『Roadie』ではスクリーンで歌声を披露しているが、日本では未公開なのが残念だ。

Vol.9 キャリー・ローウェル

シーズン7(1996年~)から登場する地方検事補ジェイミー・ロス。演じるキャリー・ローウェルといえば、とりわけ映画ファンにとっては1989年のシリーズ16作目『007 消されたライセンス』のボンドガール、パムの印象が強いに違いない。4代目ボンドのティモシー・ダルトンの2作目かつ最後の作品で、CIAエージェントのパイロットでボンドの誘惑に簡単にはなびかない(ベッドシーンもなし!)ものの、そこはやはり…と心を許していくパムは、男勝りで硬質な美貌も知的な雰囲気もローウェルのイメージにぴったりだった。もうひとりのボンドガール、タリサ・ソトがセクシー路線で人気が高いが、178センチの長身にショートカットもクールなローウェルは、最初はあまり色気がないがボンドによって徐々に洗練されていく過程も魅力的で、何と言っても抜群のスタイルを生かしたドレスアップ姿が本当に美しくかっこよかった。そんなローウェルは、やはりというか当然というかモデル出身。ラルフ・ローレンやカルバン・クラインのモデルとして注目を集め、有名ファッション誌の表紙を飾りCMに出演するなど人気を得た。

そうした美貌もさることながら、浮ついたところを感じさせない知的なローウェルは「LAW & ORDER」のお堅い検事補もハマっているが、そうしたしっかり者感は、地質学者の父親を持ち、子供時代はリビアで過ごし、若い頃は世界各国を旅していたというバックグラウンドが影響しているかもしれない。その後、アメリカに戻ったローウェルは、モデルを経て1986年に『ハイスクール殺戮ラブ』(未)で映画デビュー。翌年『マネートラップ/危ない天使』(未)に出演し、トム・ハンクス&メグ・ライアン共演の『めぐり逢えたら』(93)やニコラス・ケイジ主演の『リービング・ラスベガス』(95)など多くの映画に出演。「LAW & ORDER」をはさんで、近いところではTV映画「追憶の街 エンパイア・フォールズ」(05)、J.J.エイブラムスが製作総指揮を手掛けたドラマ「Six Degrees」などに出演した。

一方、「LAW & ORDER」で演じたロスは結婚生活が破綻しており、娘の親権を争うといったエピソードが複数話登場するが、ローウェル自身はプライベートで3度結婚している。最初は、写真家のジョン・ステンバーと1984年5月に結婚(1988年9月に離婚)。2度目は、映画『アフター・アワーズ』(85)や『グラン・ブルー』(88)に出演する俳優で、『プラクティカル・マジック』(98)の監督でもあるグリフィン・ダンと1989年12月に結婚。翌年4月には娘をもうけたが、1995年12月に離婚した。そして3度目の結婚は、ハリウッドのビッグネーム、リチャード・ギア。2000年2月に2人の間には男の子が誕生しており、2002年9月に結婚。ニューヨークで行われたセレモニーは非常にプライベートなもので、子供たちだけが出席するというものだった。モテ男なイメージのあるギアは、これが2度目の結婚で、元妻はスーパーモデルとして世界的な人気を誇ったシンディ・クロフォード。好みがわかるなあという感じだが、ローウェルとギアのツーショットは迫力の美男美女でお似合いなのだった。

Vol.10 ダン・フロレク

「LAW & ORDER」で27分署の刑事たちをまとめる上司といえばヴァン・ビューレン警部補のイメージが強いが、初期の「LAW & ORDER」を牽引したメインキャストのひとりがニューヨーク市警の警部ドナルド・クレイゲンだ。シーズン1~3までレギュラー出演したダン・フロレクは、一体いつから…?と思うはげ頭(失礼!)がトレードマーク。1999年に始まったスピンオフ第1弾「LAW & ORDER:性犯罪特捜班」のパイロット版に同クレイゲン役で登場して以後、長きに渡ってレギュラー出演しているので、日本のファンには「性犯罪特捜班」で記憶している人も多いかもしれない。

1950年5月1日ミシガン州生まれのフロレクは、イースタン・ミシガン大学で数学と物理を専攻していたが、演劇で奨学金を提示されて演技に転向。名門ジュリアードで学び、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」といった古典からベトナム戦争の帰還兵を描いたスティーヴン・メトカフの戯曲「季節はずれの雪」や「Big River」といった現代劇まで、ニューヨークで多くの舞台でキャリアを磨いた。1980年代からロサンゼルスを活動の拠点とし、ロバート・デ・ニーロとミッキー・ローク共演の衝撃作『エンゼル・ハート』(87年)や『イントルーダー/怒りの翼』(91年)、『フラッド』(98年)などのハリウッド大作に出演。個人的には映画の評価はさんざんだったが興行収入成績は悪くなかった『フリントストーン/モダン石器時代』で演じた、主人公の上司のミスター・スレート役がアニメのイメージとも相まって妙におかしく印象に残っている。

TVにも多く出演しているが、出世作となったのは準レギュラーで出演した「L.A.ロー」(88年~93年)だろう。そして代表作は、もちろん「LAW & ORDER」と「LAW & ORDER:性犯罪特捜班」である。ほかに、「21ジャンプ・ストリート」「ザ・プラクティス~ボストン弁護士ファイル」「NYPDブルー」「ザ・プリテンダー~仮面の逃亡者」「人類、月に立つ」「BONES ボーンズ」などのヒットシリーズに多数ゲスト出演している。また、「LAW & ORDER」ではシーズン4の第10話、第16話、シーズン5の第20話のエピソード監督を務めている。

プライベートでは、熱心なゴルファーでアンティークのゴルフクラブの収集家として知られているフロレク。これらは「LAW & ORDER:性犯罪特捜班」のクレイゲン警部のオフィスに見ることができる。また、プロではないが熟練したミュージシャンでもあり音楽に関係するものを収集しているとか。奥さんはアーティストだというから、芸術方面に明るく多彩な趣味の持ち主のようだ。ちなみに、2013年米公開予定のコメディ映画『Santorini Blue』では、フィン刑事ことアイス・T、ジョン・マンチ刑事ことリチャード・ベルザーという「LAW & ORDER:性犯罪特捜班」の面々が共演する。ファンにとっては興味深く、日本でも公開して欲しいものだ。

Vol.11 アンジー・ハーモン

シーズン9~11に登場する麻薬特捜班出身、過去4年間の勤務で有罪率95%を誇るという設定のアビー・カーマイケルは、「LAW & ORDER」の歴代女性検事補の中でもとりわけ鼻っ柱の強いキャラクターだろう。あのマッコイと対等にやり合うカーマイケルの迫力といったら!演じるアンジー・ハーモンは、現在米で放送中の人気ドラマ「リゾーリ&アイルズ」のリゾーリ刑事役で日本でもおなじみ。勝ち気で男勝りなリゾーリはカーマイケルよりずっと明るくコミカルな味付けとなっているが、主役でも脇でもハーモンはその美貌とあいまって強烈な個性が印象に残る女優だ。

1972年8月10日テキサス州ダラス生まれのハーモンは、両親がモデル(ハーモンが幼少時に離婚)、父方のルーツはアイルランド人、スコットランド人、ネイティブアメリカン、母方はギリシャ人の血を引く。子供のころからモデルのとして活躍し、15歳で「Seventeen magazine」のカバーガールになるなどモデルとして成功を収めた。その後、機内で乗り合わせた「ナイトライダー」(82-86)のデビッド・ハッセルホフの目にとまり、俳優業をスタートさせるきっかけとなったのは有名な話。そのハッセルホフが水難救助隊のライフガード、ミッチ・ブキャナンを演じた「ベイウォッチ」(89-99)は世界的に成功を収めた大ヒットシリーズだが、そのスピンオフ「Baywatch Nights」(95-97)にハーモンはレギュラー出演するというラッキーなスタートをきった。2シーズン全44話が放映された本作は、ミッチらと共にハーモン扮する犯罪学者ライアンがマリブビーチ近辺で起こった犯罪を解決するというサスペンス。残念ながら筆者は本作を目撃していないのだが、シーズン2では超常現象と遭遇するスリラーに変貌しているらしく成功作とは言えないものの、ハーモンが世に知られるチャンスとなったことは間違いない。番組終了後、短命に終わったエリック・ロバーツ共演のクライム・アクション「FBI犯罪特捜班 C-16」(97-98)を経て、1998年から「LAW & ORDER」に出演して演技力を証明して見せた。1999年から始まったスピンオフ「LAW & ORDER:性犯罪特捜班」のシーズン1にも同じ役でゲスト出演(全6話)している。

2000年代は、「マルコム in the Middle」のマルコム役でおなじみのフランキー・ムニッズ主演のアクション・コメディ『エージェント・コーディ』(03)、ジム・キャリー主演のコメディ『ディック&ジェーン 復讐は最高!』(05)、キューバ・グッディング・Jr.と共演したサスペンス『エンドゲーム 大統領最期の日』(06)など映画にも多く出演。TVでは、主演の刑事リンジーを演じたABCのジェームズ・パターソンのベストセラー小説をもとにしたミステリー「Women's Murder Club」(07-08)が個人的に大いに期待したドラマだった。サンフランシスコを舞台に殺人課刑事リンジー、地方検事補ジル、検視官クレア、新聞記者シンディの4人の女性が殺人事件を解決するというものだが、残念ながら不発に終わってしまった。だが、タフで強い女性というハーモンのイメージは刑事にぴったりで、「リゾーリ&アイルズ」でハマリ役を得たことは嬉しい限りだ。

ヒット作やいい役にばかり恵まれたわけでもないが、基本的には順調に陽の当たる道を歩んできたと思われるハーモン。夫は元NFLのスター選手ジェイソン・シーホーンで2001年6月に結婚したのだが、プロポーズを受けたのはジェイ・レノの人気トークショー「The Tonight Show with Jay Leno」にハーモンが出演中の2000年3月だった。オンエア中にサプライズでシーホーンが登場し、ハーモンが快諾した後に彼女の父親が登場して祝福したというあたりが感動的というかいかにもアメリカっぽいというか。現在は3人の娘の母親でもあるハーモンだが、夫がスポーツ選手というあたりも、こちらの勝手な思い込みかもしれないがイメージを裏切らない気がする。

Vol.12 デニス・ファリーナ

「LAW & ORDER」の刑事コンビといえばブリスコー&グリーンから入った筆者にとって、ジェリー・オーバック亡き後のメンバーチェンジは不可抗力とはいえかなり抵抗があった。結論から言えば、オーバックのような洒落っ気を持ちつつ独自の存在感を発揮してグリーン&フォンタナも他の例にもれず魅力のあるいいコンビとなった。シーズン15から登場するジョー・フォンタナことデニス・ファリーナといえば、イタリア系のダンディでちょいワルなルックス&雰囲気にどちらかといえば悪役のイメージが強く、『ゲット・ショーティ』(95)や『スナッチ』(00)といった映画での悪党がど真ん中。もっとも『アウト・オブ・サイト』(98)では保安官だったし、元FBIアカデミー教官ウィル・グレアムを「CSI:科学捜査班」のウィリアム・ピーターセンが演じた『刑事グラハム/凍りついた欲望』(86)では、その元上司ジャック・クロフォードをファリーナが演じていたことを考えると、善玉と悪玉を自由に行き来出来るファリーナの配役のレンジの広さは興味深いものがある。そんな彼が演じるフォンタナは、刑事とは思えないほど身なりに気を使うシリーズきっての伊達男。27分署の刑事たちからがうさんくさい目で見る気持ちもわかるなあと共感しながらドラマを観ていたので、ファリーナがフォンタナのバックグラウンドと同じくシカゴで警官として18年間働いていたという経歴の持ち主だと思うとなんとなく不思議な気がしたものだ。

1944年2月29日米イリノイ州シカゴ生まれのファリーナは、シチリア移民2世のイタリア系アメリカ人。軍に3年間勤務した後、シカゴ市警察に18年間(67-85)勤務した。俳優になるきっけとなったのは、マイケル・マン監督の映画『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』(81)に警察アドバイザーとして参加したこと。本作では出演も果たしており、その後はマンが製作総指揮を務めたTVシリーズ「クライム・ストーリー」(86-88)では主演を務めるなど、俳優のキャリアにおいて現在にいたるまでマンとの関わりはコンスタントである。ちなみにシカゴ警察時代の相棒のひとりだったチャック・アダムソンは、「クライム・ストーリー」の製作に参加しているほか「マイアミ・バイス」の脚本などを手掛けている。近年では、ダスティン・ホフマン、ニック・ノルティらと共演したHBOの競馬の世界を舞台にした意欲作「LUCK」(11-)にレギュラー出演したファリーナ。製作総指揮にはマイケル・マンが名を連ね、馬主やジョッキー、ギャンブラーのサスペンス仕立ての人間ドラマで批評家の評価は高かった。だが、撮影中に転倒した馬3頭を安楽死させる事故が発覚し、動物愛護団体の安全管理に問題がある放送中止を求めるなどトラブルに見舞われ、シーズン2の製作もスタートしていた矢先に昨年キャンセルが決定したことは残念だった。
私生活では離婚した元妻との間に3人の息子がいる。

Vol.13 ジェシー・L・マーティン

ベンジャミン・ブラット扮するレイ・カーティスと入れ替わり、シーズン10からブリスコーの相棒となったグリーン刑事。筆者にとっての「LAW & ORDER」の入り口はブリスコー&グリーンだったので、このコンビへの個人的な思い入れが強いのだが、ブリスコー役のジェリー・オーバックとマーティンは地元ブロードウェイの実力者が多く登場する「LAW & ORDER」史上において、世代に開きはあるが最強のミュージカルスター・コンビでもあることは特筆すべき点だろう。

1960年1月18日、米ヴァージニア州生まれのマーティンは、両親が幼い頃に離婚し、母親と4人の兄弟と共にニューヨークへ引っ越した。学生時代から演技に情熱を見出し、オフブロードウェイなどの舞台でキャリアを積みながらコマーシャルなどTVの仕事も得るようになった。そんなマーティンの名前を一躍世に知らしめたのが、ジョナサン・ラーソンによるピューリッツァー賞、トニー賞ほか数々の賞に輝く傑作ミュージカル「RENT」だ。1996年1月にオフブロードウェイのニューヨーク・シアター・ワークショップで幕を上げた本作は、またたくまに評判を呼び、同年4月にはオンに進出。ブロードウェイのネダーランダーシアターで商業公演を開始するという快挙となった。作品の高い評価に加えて記録的なロングランとなったこと、ツアーや世界各国で上演がなされていることからも「RENT」の人気ぶりはわかる。同時に、ラーソンが7年の歳月を費やして作り上げた本作のプレビュー初日の前日に35歳の若さで急死したことにより、「RENT」はブロードウェイの伝説として語り継がれることとなった。この不朽の名作にオリジナルキャストとして、マーティンは破天荒な大学講師でゲイでHIV陽性のトム・コリンズ役で出演。共演者には、「glee/グリー」にゲスト出演したイディナ・メンゼル、「プライベート・プラクティス」のテイ・ディグスら海外ドラマファンにもおなじみの面々がおり、彼らはマーティンと共に2005年の映画版『RENT/レント』にも同じ役で出演している。190センチの長身に人を惹き付ける笑顔も魅力的なマーティンは、この成功を経てすぐにメジャー街道を歩み始めることとなった。1998~1999年には、このドラマでマーティンの存在を知った日本のファンも多いであろう『アリー my Love』のシーズン1&2に医師グレッグ役で出演。そして1999年~2008年の長きにわたって出演した「LAW & ORDER」は、マーティンの人気と知名度を決定付ける代表作となった。

近年は、サスペンス映画『パンクチュア 合衆国の陰謀』(11年/未公開)や、クイーン・ラティファ、ジェレミー・ジョーダンと共演した音楽映画『ジョイフル♪ノイズ』(12年)などに出演。新作では2014年公開予定のミュージカル映画『Silent Rhythm』が控えているので、こちらも楽しみにしたい。一方で、単発や期間限定ではあるが舞台にも撮影の合間をぬって出演している。筆者は、2010年6月30日にセントラルパーク内の野外劇場で毎年上演されるフェスティバルで上演された「ベニスの商人」を観た(チケットは無料だが抽選)。シャイロックを演じるアル・パチーノが目当てだったが、マーティンのほか「WITHOUT A TRACE/FBI失踪者を追え!」のマリアンヌ・ジャン=バプティストも出演しており、パチーノやバプティストらと共演するマーティンを観ることができて大いに得をした気分で芝居を満喫した。パチーノ主演の「ベニスの商人」は同年11月から翌年2月までブロードウェイで上演され、こちらにもマーティンは出演している。

こうしたバックグラウンドを考えるにつけ、マーティンがブロードウェイの大スターであり大先輩であるオーバックをリスペクトし、また共演を楽しんだであろうことは想像に難くない。事実、オーバックの訃報を受けたマーティンはあまりのショックで、オーバック不在の「LAW & ORDER」の現場に戻ることはできないと思ったという。これは当コラムのVol.1のオーバックの回にも書いたが、2005年のトニー賞授賞式の「In Memoriam」のパートでは、「シカゴ」のオリジナルキャストとしてビリー・フリンを演じたオーバックを偲んでマーティンが"Razzle Dazzle" のパフォーマンスを披露した。この映像は今でも観る度に涙がこぼれてしまうのだが、「LAW & ORDER」を観ればいつだってブリスコーとグリーンのコンビに会えると思うと、日本で本作の全シーズン放映が実現して本当によかったと心から思うのだ。

Vol.14 エリザベス・ローム

初代のポール・ロビネットをのぞけば、ブルネットのキリっとした美人顔の女性が大勢をしめる「LAW & ORDER」シリーズの地方検事補。シーズン12から登場するセリーナ・サウザリンはブロンドに華のある、女らしいルックスも意外性があると同時に、最後の登場エピソードで明かされる情報にもえっ?と驚かされる、なかなか異色の存在だ。演じるエリザベス・ロームの代表作は本シリーズであるが、海外ドラマファンにとっては「HEROES/ヒーローズ」(06-10)の"組織"のエージェントでベネットの元パートナー、ローレン・ギルモア役、あるいは「エンジェル」(99-04)のケイト・ロックリー刑事役といえばピンとくる人も多いかもしれない。

1973年4月28日 にドイツのデュッセルドルフで生まれたロームは、 1歳になる前にニューヨーク市に移り住み、それからコネチカット州に移り住んだためドイツとアメリカ合衆国の二重国籍を持っている。企業弁護士の父親とコピーライターの母親は幼い頃に離婚した。高校卒業後はニューヨーク州のサラ・ローレンス大学に通った。女優としては1990年代の終わり頃からTVに出演するようになり、その美貌から期待されたドラマのパイロット版に抜擢されるなど注目を集めたローム。1999年にはBBCのミニシリーズ「Eureka Stree」で主要キャストのひとりとしてイギリスのドラマに出演した。その後、ベーシック・ケーブル局TNTが初めて手掛けた記念すべきオリジナルテレビ・シリーズで、ウォール街を舞台にエリート証券マンたちの野望や裏切り、スリリングなマネーゲームを描いた『ブル ~ ウォール街への挑戦』(00-01)で野心家のアリソンを好演。ジョージ・ニューバーン、スタンリー・トゥッチらと共演した本作で存在感をアピールした。一方、1999年-2001年まで「エンジェル」に出演し、2001年から2005年まで出演した「LAW & ORDER」で、その知名度を確固たるものにした。

そのほか、TV映画や「THE MENTALIST メンタリストの捜査ファイル」のシーズン1、「新ビバリーヒルズ青春白書」のシーズン2、「CSI:マイアミ10 ザ・ファイナル」などの人気ドラマにゲスト出演。 近年は、ケーブル局Lifetimeのジェニファー・ラブ・ヒューイット主演の新シリーズ「クライアント・リスト」(12-)にゲスト出演している。映画は、『デンジャラス・ビューティー2』(05) 『ミッシング ID』 (11)などのほか、スリラー『Everlasting』(13)、ダグ・ジョーンズと共演するロマンチック・コメディ『Bluegrass Run』(13)などの全米公開待機作がある。

プラベートでは乗馬が得意で馬術に長けているローム。2008年4月に娘を出産してからは子育てが最優先事項だそうで、父親は元婚約者の起業家だが結婚はしていない。それ以外にも過去にはTVリポーター、ディレクターとも婚約していたが、いずれも破局している。

Vol.15 ダイアン・ウィースト

シーズン1からニューヨーク地方検事を演じたアダム・シフことスティーヴン・ヒルがシーズン10で惜しまれつつも降板。ノラ・ルーウィン役でその後を継いだのは、ウディ・アレン映画の常連で『ハンナとその姉妹』(86)と『ブロードウェイの銃弾』(94)で2度のアカデミー賞助演女優賞に輝くウィースト。舞台でも評価の高い演技派ぞろいの本シリーズにおいても、随分と大物がきたなあという印象と、唯一の女性地方検事という意味でも意外なキャスティングな気もするが、現場経験のない法律学の教授出身というアカデミックな設定はウィーストの格調高い品の良さにしっくりくる。

1948年3月28日、米ミズーリ州カンザスシティ生まれのウィーストは、メリーランド大学で演劇を学んだ後、劇団に参加。1970年代からオフ・ブロードウェイやブロードウェイの舞台に立つようになり、めきめきと頭角を現した。ビッグネームになってからもオフやフェスティバルへの出演もマメで、現代にいたるまでのとにかく長い出演リストを見ると、ウィーストの演技に対する尽きることのない情熱、シアタージャンキーとも言うべき舞台への愛情がよくわかる。オビー賞やシアター・ワールド・アワードほか多くの賞の候補になっているが、それらの複数の賞を受賞した1979年12月に上演された『The Art of Dining』は、彼女の存在に大きな注目を集める作品となった。本作でウィーストは、同じくオスカー女優のキャシー・ベイツ、海外ドラマファンにはおなじみの「エイリアス」などのロン・リフキンらと共演している。最も良く知られている舞台は、1982年に上演された「Othello」だろうか。ジェームズ・アール・ジョーンズがオセロ、クリストファー・プラマーがイアーゴ、ウィーストがデズデモーナを演じるという演技派の重鎮がそろった本作は、ぜひとも劇場で観てみたかった。近年の割と近いところでは、ケイティ・ホームズがブロードウェイデビューを飾ったことでも話題になったアーサー・ミラーの「All My Sons」(08-09)に出演。ウィーストのほかジョン・リスゴー、パトリック・ウィルソンという新旧人気俳優がそろった一作だった。

若くして舞台で確固たる評価を得たウィーストは、1980年以降は映画・TV映画への出演が続く。80年代に映画を謳歌した世代にとっては、『フットルース』(84)のヒロイン、エリエルの母親役(ジョン・リスゴーの妻役)や、『再会の街/ブライライツ・ビッグシティ』ではマイケル・J・フォックス扮する主人公の母親役を懐かしく思い出すかもしれない。しかし、その才能がハリウッドにおいて大きく開花するきっかけとなったのは、『カイロと紫のバラ』(85)のウディ・アレン監督との出会いであろう。翌年の『ハンナとその姉妹』、続く『ラジオ・デイズ』と立て続けにアレン作品に出演。前者ではアカデミー賞を受賞し、ハリウッドでも演技派としての地位を確立した。その他の映画の主な出演作はアカデミー賞助演女優賞候補になった『バックマン家の人々』(89)、『シザーハンズ』(90)『リトルマン・テイト』(91)『バードゲージ』(96)『モンタナの風に抱かれて』(98)『アイ・アム・サム』(01)ほか多数。近年で目を引いたのは、同名舞台を映画化した『ラビット・ホール』で、これもまた母親役だった。ニコール・キッドマン扮する息子を事故で失った娘を励まそうとする、時にはわずらわしさも感じさせるが心底愛情深い母親像をウィーストは見事に体現していた。TVでは単発のTVムービーも多いが、シリーズものは「LAW & ORDER」シリーズのほか、ガブリエル・バーン主演のHBOの野心作「In Treatment」(08-)のシーズン1&2に出演してエミー賞助演女優賞を受賞している。

こうして彼女の充実したキャリアを振り返ると、まさに演技に捧げた人生という印象で、決して派手ではない地道な活動も含めてかっこいいなあと思わせられる。プライベートでは結婚はしていないが、2人の養女の母親でもある。

Vol.16 フレッド・ダルトン・トンプソン

ダイアン・ウィーストが演じるシリーズ中唯一の女性地方検事ノラ・ルーウィンは、彼女の持つ柔らかいイメージとは裏腹に、しばしば決断の難しいケースやあいまいな結末にもピシっと引導を渡す興味深いキャラクターだった。そのあとを継いで、シーズン13からシーズン17(2002年~2007年)までニューヨーク地方検事アーサー・ブランチを演じたのが、外見が与える印象からしてガラリとイメージが違うフレッド・ダルトン・トンプソンである。一時期は保守本流派を支持母体としてアメリカ大統領候補だったことのある政治家でもある、「LAW & ORDER」の中では異色中の異色の経歴を持つ人物だ。

1942年8月19日、アラバマ州シェフィールド出身のトンプソンは、1980年代の終わり頃からTVや映画で俳優として活躍するようになった。『ダイ・ハード2』(90)や『カーリー・スー』(91)、『ザ・シークレット・サービス』(93)などのメジャー作品に出演。しかし、俳優になる前のダルトンは法律家・弁護士であり、ベテランの政治家としよく知られていた。

メンフィス大学とヴァンダービルト大学で学んだトンプソンは、1967年に後者から法学博士号を取得。ハワード・ベーカー上院議員(後に駐日大使)の選挙責任者を経て、全世界の注目を集めたウォーターゲート事件での彼の英雄的な活躍ぶりがその名を広く世に知らしめることとなった。1972年から1974年に起きたアメリカの政治スキャンダルを調査する、上院ウォーターゲート特別調査委員会で副事務局長(共和党側スタッフ代表)として、トンプソンは同じ共和党員であるにも関わらず鋭く核心を突いた質問をして、時の大統領ニクソンの辞任につながる重大な情報を公の場で引き出したのである。この時の彼の勇姿は国民に英雄として記憶されることとなり、オリヴァー・ストーン監督の『JFK』(91)の中で使われているこの委員会の公聴会のアーカイブフッテージにはトンプソンの姿を見ることができる。その後の政治家としてのキャリアは精力的かつ輝かしいものでもあるが、細かくは省略する。主に1994年12月~2003年1月までテネシー州選出のアメリカ合衆国上院議員をつとめ、また1997年1月~2001年6月にかけて上院政府問題委員会委員長を断続的につとめた。

俳優としてはそのバックグラウンドから政府の役人を演じることが多く、代表作である「LAW & ORDER」シリーズの地方検事アーサー・ブランチ役は、そんな彼のキャリアを如実に反映しているような、有無を言わせぬ威圧感と迫力の物言いが圧巻だ。また、198センチという長身とがっしりとした外見に、政治家らしいこわもてもまたインパクトがある。ちなみに、筆者は本作のブランチに"叩き上げの根性人"という印象を抱いていたが、トンプソンが法律家になる前は、靴のセールスマン、トラックのドライバー、工場労働者として働いていた時期もあると知った時は、やはり彼自身が叩き上げの人生だったのかと大いに納得したものだった。そのトンプソンは保守派からの人気が高く大統領選への出馬を期待されており、本人もその意志が固まったことから2007年に番組を降板することとなった。同年9月に大統領選への出馬を正式に表明したが、最終的には2008年1月に選挙戦から撤退した。

近年は、「グッド・ワイフ」(09-)にゲスト出演しているほか映画の新作も控えており、俳優としてコンスタントに活動している。だが、やはりトンプソンの俳優としての真価は「LAW & ORDER」シリーズにあると筆者は思う。マッコイ役のサム・ウォーターストンとの丁々発止の舌戦も見ものだが、シリーズ中で最も政治的な側面をリアルに体現していているのはトンプソンならではだろう。ぜひ一度、異色の俳優の演技を字幕版で堪能してみて欲しい。

Vol.17 ジェレミー・シスト

女性刑事キャシディの後がまとして、シーズン18よりグリーン刑事の相棒として登場するサイラス・ルーポ。海外で危険な任務についており、兄トーマスの訃報を聞き任地から帰国したという設定が、現実的な本シリーズにおいては随分とドラマチックだなあと思ったのが初登場回の感想だった。もちろんルーポはすぐに本作に馴染み、ソフトなイケメンぶりが捜査に役立つことがあったりするのは、ベンジャミン・ブラット演じるレイ・カーティスを思い出させるところもある。

ルーポ役のジェレミー・シストは、1974年10月6日カリフォルニア州グラスヴァレー生まれ。育ったのはイリノイ州シカゴで、ジャズ・ミュージシャンの父親はシカゴで活躍しており、Louisville radio (WFPK)でジャズ番組でホストをつとめていたこともある。シストもギターを得意とするミュージシャンでもあるのは、父親の影響だろうか。ちなみに、シストは2012年に作詞作曲、ギター、歌、プロデュースを兼ねた初のソロアルバム「Escape Tailor」をリリース。ミュージック・ビデオはネットで探すと観られるものがあるが、俳優としてのシストのイメージとはまた違った一面を見ることができて興味深い。両親は4歳の時に離婚したが、母親は女優のリーディ・ギブス。姉メドウ・シストと共に俳優になったのもこれまた親の影響が大きかったに違いない。

シストは姉と一緒にオーディションを受けるうちに、舞台に出演するようになった。90年代からはTV・映画に進出し、映画は『ムーンライト&ヴァレンチノ』(95)、『白い嵐』(96)、『サーティーン あの頃欲しかった愛のこと』(03)、『クライモリ』(03)などに多くの映画に出演。だが、日本のファンにとっては、やはりドラマの方がなじみがあるかもしれない。TVシリーズで記憶に残るのは、HBOの秀作ドラマ「シックス・フィート・アンダー」(01-05)で、シーズン4と5にビリー・チェノウィス役で準レギュラー出演した。その後、主演を務めたサスペンス「キッドナップ」(06-07)ではダナ・デラニー、ティモシー・ハットンと共演し、探偵ナップを熱演。作品の評価も悪くなく熱心なファンを獲得しつつも残念ながら1シーズンで終了した。そして、2007年~2010年には「LAW & ORDER」のシーズン18から最終となるシーズン20までルーポを演じたが、実はシーズン17の第22話で別の役でゲスト出演しているシスト。本作のファンにはおなじみと思うが、レギュラー出演する前に別の役で同作にゲスト出演するパターンはジェリー・オーバックほか複数いるのだが、シストの場合は間を空けずにレギュラーとなったので続けて観ていると、ちょっと不思議な気もする。

「LAW & ORDER」終了後は、コメディ「Suburgatory」(11-)にレギュラー出演。都会から郊外に引っ越してきたティーンエイジャーの女の子テッサの目を通してカルチャーギャップを面白おかしく描いたもので、そのシングルファーザーであるジョージを演じている。これがなかなか好評で、現段階(2013年4月上旬)ではシーズン3への継続が見込まれている。ちなみに、このシリーズには母親のリーディ・ギブスが小さな役でゲスト出演しており、ほかにも「LAW & ORDER」や「シックス・フィート・アンダー」といったシストの出演作にギブスはゲスト出演している。

ミュージシャンとしても活動していることは先にも述べたが、「LAW & ORDER」シリーズの多くの出演者同様にシストもシアター経験があり評価もされている。2004年にはロサンゼルスで舞台「Take Me Out」に出演し、ロサンゼルス・ドラマ・クリティック・サークル・アワードで主演男優賞を受賞。2006年4月~5月には、ブロードウェイのオリジナルのプレイ「Festen」でアリ・マッグローやジュリアナ・マルグリースらと共演した。また、ブロードウェイで開催される一夜限りのチャリティー舞台として有名な「The 24 Hour Plays 」では、2007年と2009年に出演。10分間の一幕物6本で構成される演劇で、6人の脚本家と6人の監督、そして24人の出演者たちが日曜の夜に集合し、チーム毎に作品を作り上げて翌月曜夜に観客の前で本番をむかえるという企画だ。毎回大物スターが出演することでも話題を呼ぶこのイベントは、例えばシストが出演した2009年の第9回にはアシュトン・カッチャー、ジェニファー・アニストン、デミ・ムーアらが同じ舞台に立っている。  TV、舞台、ミューシャンと多彩に活躍するシストの近作は、映画『素敵な相棒~フランクじいさんとロボットヘルパー~』(12)で、日本では8月10日に公開予定。ハートフルなドラマで、名優フランク・ランジェラとジェームズ・マースデン、リブ・タイラーらと共演している。また、全米で今年公開予定のコメディ映画『As Cool as I Am』では、クレア・デインズ、ジェームズ・マースデンらと共演している。

Vol.18 アラナ・デ・ラ・ガーザ

アニー・パリッセ(現在ケヴィン・ベーコン主演の「ザ・フォロイング」(13-)に出演中)が演じた地方検事補アレクサンドラ・ボルジアの後をついで、シーズン17から登場するコニー・ルビローサ。キリっとしたすずやかな目元も印象的なアラナ・デ・ラ・ガーザは、文字通り美し過ぎる検事補である。後にマッコイに代わって上役となるマイケル・カッターが、陪審員の男性がルビローサに色目を使っていたのを結果的に利用する形となったケースがあったが、これだけ美人だとねえ...とモラル的には許し難いが、つい納得してしまうのだった。

演じるアラナは1976年6月18日、オハイオ州コロンバス生まれで、テキサス州エル・パソで育った。エキゾチックな顔立ちはメキシコとアイルランドの血を引いており、劇中ではしばしば「移民の両親のもとで苦労して育った」というセリフとそれに関連したエピソードがある。テキサス大学で理学療法と社会福祉事業を学び、フロリダ州オーランドでインディペンデント映画やコマーシャルに出演するなどして業界入りを果たした。その後、ニューヨークに移住して本格的に演技を勉強した。

インパクトのある美貌も注目を集めた最初の作品は、2001年にゲスト出演したTVシリーズ「All My Children」。その後は、2003年に「犯罪捜査官ネイビーファイル」と「ラスべガス」、2004年には「チャーリー・シーンのハーパー★ボーイズ」、2005年には「ヤング・スーパーマン」と「チャームド~魔女3姉妹」、そして「CSI:マイアミ」などの人気ドラマに数多くゲスト出演した。特に、「CSI:マイアミ」では2005年~2006年と2011年にゲスト出演したマリソル・デルコ役は、海外ドラマファンにとっては強く印象に残っているに違いない。マリソルはエリック・デルコの姉で末期のガン患者であり、巻き込まれた犯罪から助けてくれたホレイショと交際を始めるという重要なキャラクターを演じた。続いてレギュラー出演となったのが「LAW & ORDER」で、2006年~2010年の最終シーズンまでルビローサを演じた。カッター&ルビローサというマッコイの下で働く新生検事補コンビが、「LAW & ORDER」の新たな検察の顔として定着したこともあってシリーズの終了は残念だった。後にルビローサは西海岸に活躍の場を移したという設定で、スピンオフ「LAW & ORDER:LA」にゲスト出演している。

映画では、ロマンチック・コメディ『Mr. Fix It』(06)で「BONES」のデビッド・ボレアナズと共演。また、近年は2012年に「ロサンゼルス潜入捜査班~NCIS:Los Angels」にゲスト出演したほか、今期のNBCの新ドラマ「Do No Harm」に医師役でレギュラー出演していたが、残念ながらこちらは番組がキャンセルとなってしまった。ほかに米で今年公開よ手のコメディ映画『You Are Here』ではオーウェン・ウィルソン、エイミー・ポーラーほかと共演している。

私生活では、2008年5月にマイケル・ロバーツと結婚。2010年に長男を出産し、今年の7月には第2子を出産予定だ。

Vol.19 ライナス・ローチ

「LAW & ORDER」の顔とも言うべきマッコイが、ついにアーサー・ブランチの後釜としてニューヨーク地方検事に出世。そのマッコイに代わるキャラクターは相当難しいなあと思ったが、シーズン18から地方次長検事マイケル・カッター役として登場したのは紳士然としたイケメンのライナス・ローチだった。マッコイとは一見すると正反対のタイプで、ルビローサ役のアラナ・デ・ラ・ガーザと並ぶと美男美女ぶりが際立つ。このカーターの登場によって、大分シリーズの印象が変わった(若返った!?)のではないだろうか。当初はさすがにマッコイの存在感に比べると少し弱い気がしたが、他の多くのキャストと同じく舞台でも確固たるキャリアを築いているローチは、知性派でありつつ目的のためには時に大胆かつダーティーな手段を用いる野心的で、外見とのギャップも魅力的なキャラクターを作り上げてシリーズの終盤を牽引した。

1964年2月1日、イギリス・マンチェスター出身のローチは、両親共に俳優で11歳からイギリスのソープ・オペラのロングラン・TVシリーズ「Coronation Street」に出演し、子役としてキャリアをスタートさせた。ロンドン・ドラマ・スクールで演技を学んだ後、名門ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで4年間数々の舞台に立ちキャリアを積んだ。90年代からは映画にも多く出演するようになり、端正な顔立ちにエレガンスな雰囲気は日本人にも人気が高く、特に話題となった1994年の映画『司祭』でファンになったという人も多いに違いない。この映画で彼が演じた神父グレッグは、夜はゲイバーへ通い、そこで知り合った男性と関係を持つようになるゲイという役どころ。その美男子ぶりと繊細な演技力は瞬く間に多くのファンをとらえるところとなった。同年はイギリスBBCのTVシリーズ「Seaforth」にも出演して大いに業界からも注目を集める存在となったが、この後、ローチは仕事から離れてインドで18ヶ月間にわたり瞑想を行いながら精神世界の探求に勤しんだという。このエピソードは、どこかスピリチュアルな空気をまとった、思慮深さを感じさせるローチのイメージを鑑みてもしっくりくるのだった。

だが、俳優を辞めるという選択はせず、以後も舞台に重きを置きつつTVや映画に出演。映画は日本公開作ではヘレナ・ボナム・カーター主演の格調高い文芸作品『鳩の翼』(97)やブルース・ウィリス主演の『ジャスティス』(02)、アンジェリーナ・ジョリーの夫役を演じた『すべては愛のために』(03)、『バットマン ビギンズ』(05)ではバットマンことブルース・ウェインの父親トーマス・ウェインを演じている。また、国際的に知名度を得たローチは、アメリカのTVシリーズにも多く出演するようになった。後に「LAW & ORDER」で共演することになるジェレミー・シスト主演のサスペンス「キッドナップ」にレギュラー出演したほか、近年はミニ・シリーズ「タイタニック 愛と偽りの航海」(12)では発展家の娘に手を焼く伯爵役を好演していた。年齢を考えれば別に不思議ではないのだが、個人的には年頃の娘がいる父親役にしてはローチは若過ぎるような気もしたのは、ローチの外見にあまり変化がないと言おうか、つくづく若く見えるのだなと思わされた。「LAW & ORDER」の終了後は、リーアム・ニーソン主演のアクション・スリラー『Non-Stop』(13)ほかコンスタントに映画に出演している。

Vol.20 アンソニー・アンダーソン

次々とメンバーを交替しながらシリーズをロングランさせるのはアメドラの常套手段。シーズン18の第14話に初登場したケヴィン・バーナードは、長寿シリーズ「LAW & ORDER」の最後の新キャラクターとなった。もとは内部調査部に所属していたが、後にグリーン刑事に代わってルーポ刑事の相棒となるバーナード。演じるアンソニー・アンダーソンは、筆者にとってはコメディ俳優のイメージが強かったのだが、本作の刑事役はルーポ役のジェレミー・シストとの相性もよく、アンダーソンの持つユーモアのセンスも番組によい意味での軽さを演出していて適任だったと言えるだろう。検察サイドのカッタールビローサ、警察サイドのルーポとバーナードの組み合わせは世代交替も上手くいった感じでハマっていたので、もう少し長く観たかったなあとファンとして番組終了は、そういう意味でも残念であった。

1970年8月15日、カリフォルニア州ロサンゼルス生まれのアンダーソンは、テレフォンオペレイターをやりながら時折女優をしていた母親と、衣料品のチェーン店のオーナーである養父のもとで育った。業界入りは早く、5歳でTVコマーシャルに出演。学生時代からエンターテイナーとしての素質は周囲も認めるところで、奨学金を得てワシントンD.C.にあるハワード大学で演技を学んだ後、ロサンゼルスへ戻り俳優業に千年するようになった。LLクールJ主演のコメディ「In the House」(95-98)の2話にゲスト出演した後、1996~1997年にかけてコメディ「Hang Time」(95-00)で大きな役を得て注目を集めた。一方で、1998年に長寿刑事ドラマ「NYPDブルー」(93-05)にゲスト出演し、ドラマ性の高い作品へと演技の幅を広げていった。

1999年にはエディ・マーフィーとマーティン・ローレンス共演の『エディ&マーティンの逃走人生』(99)で映画デビュー。コメディもシリアスな演技もこなせる俳優としてキャリアは順調で、『リバティ・ハイツ』(99)、『ブラック・ダイヤモンド』(03)、『最'狂'絶叫計画』(03)、『ハッスル&フロウ』(05)、『ディパーテッド』(06)、『トランスフォーマー』(07)、『スクリーム4』(11)と立て続けに大作に出演した。TVシリーズへのゲスト出演も多く、「サマンサWho?」「シェイムレス 俺たちに恥はない」「サイク/名探偵はサイキック?」といったコメディ以外では、2003~2004年にかけて15エピソードに出演した「ザ・シールド」(02-08)のアントワン・ミッチェル役が印象深い。また、ハリケーン・カトリーナで被害を受けたニューオーリンズを舞台に、コール・ハウザーとの共演で主演をつとめた刑事ドラマ「K-Ville」(07-08)が11話でキャンセルとなってしまったのは残念だった。「LAW & ORDER」の後は、12年に人気ドラマ「Treme」(10-)の4話にゲスト出演。大人になりきれない父親を演じたコメディ「Guys with Kids」(12-13)では主演をつとめたが、残念ながらこちらもキャンセルとなってしまった。もっとも、今後も映画出演も複数控えており、コメディ、シリアスと双方をこなせる俳優としてさらなる飛躍を期待したい。


 

今祥枝
映画、海外ドラマライター。海外ミュージカルファン。「BAILA」「eclat/エクラ」等女性誌に映画連載、「日経エンタテインメント!」に海外ドラマ連載ほか、映画サイト「シネマトゥデイ」で企画・執筆。著書に「海外ドラマ10年史」(日経BP社)