通常のTVドラマシリーズでは実力派の監督がパイロット版や最終話を手掛け、残りのエピソードはそれぞれ違う監督がメガホンをとる。監督が一人だけだと撮影日数がかかるため、その分、製作費がかさむからだ。
ところが、キャリー・フクナガ監督の「TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ」(2014)以来、一人の監督がシーズンの全エピソードを手掛けるドラマシリーズが出てきた。カナダCTV製作の「刑事カーディナル 悲しみの四十語」は、ダニエル・グルー監督がシーズン1、3の全エピソードのメガホンをとっている。
現在、世界100以上の国と地域で放送されている「刑事カーディナル 悲しみの四十語」の原作は、カナダ人小説家ジャイルズ・ブラントの推理小説「悲しみの四十語」。同じカナダ出身のグルー監督が、最初に依頼されたのはパイロット版のみ。しかし、企画に何かを感じたのだろうか、グルー監督は全エピソードのメガホンをとらせて欲しいと頼んだ。カナダの売れっ子監督だけに、スケジュールの都合でシーズン1と3だけとなってしまったが、それでも画期的なことなのだ。
さらにグルー監督は、もう一つお願いをした。ロケ地オンタリオ州サドバリーでの撮影の際、湖のそばにポツンと建つ一軒家を借りてほしいと頼んだのだ。
「刑事カーディナル 悲しみの四十語」で主演のビリー・キャンベル演じるジョン・カーディナルと気持ちを共有するためだ。「“カーディナル”の世界に入り込みたかった。作品を通し彼が何を経験するのか、なぜやらかしてしまうのか、その気持ちを知らなきゃならないと思ったんだ」とグルー監督は語る。
シーズンを通して監督をする。だから気合もやる気も違う。「ただ撮影するだけなんてつまらない。この主人公は何を考えているんだろうと思いを巡らすことが、一晩中僕を眠れなくするんだ。これで正しいだろうか、うまくやれるだろうかって思い悩む。それでこそスリリングだし、芸術なんだと思う」(グルー監督)
「刑事カーディナル 悲しみの四十語」の魅力の一つに厳冬のカナダの風景がある。
「オンタリオ州北部での撮影で本当に良かった。だって、実際の舞台となっている場所だから、ごまかす必要がないものね」
シーズン1の撮影では、なんとマイナス40度の寒さも経験したという。それでも良かったと言えるのは、画面から伝わるいてつく寒さも演出の一つだから。
「もう一人のキャラクターのようなものだ。主人公のカーディナルは、ある意味、自分の中の悪魔に憑りつかれている。だから彼の孤独を感じてもらうために、僕らはその冬景色を見せなくちゃならなかったし、その過酷な環境も見てもらいたかった。シーズン1を思い出す時、僕はいつもカーディナルが大雪原の中にポツンと一人で立っている姿を想像するんだ」
グルー監督がこだわった冬描写。冬本番の今こそ楽しみたいドラマシリーズだ。
<「thestar.com」 1月23日>