米CBS「
レッドライン ~悲しみの向こうに」主演のノア・ワイリーが米エンタメ紙のインタビューに答えた。TVシリーズとして制作できるとは思ってなかったという問題作について、放送に至るまでの秘話を明かしている。
「僕はこれまで何人かの素晴らしい才能を持った脚本家と仕事をしてきたけれど、今回ほどよく書き込まれていると思えた脚本に出合ったことはないよ」「レッドライン ~悲しみの向こうに」(全8話)の脚本についてノアは熱く語る。
しかし、その脚本はTVシリーズ向けとしては完成品ではなかった。TVを知り尽くした、たとえばノアのような第三者の目が必要だった。
「これは珍しいことなんだけど、僕らがパイロット版の撮影に取りかかった時、まだ第5話の脚本は練られてもなかった。ストーリーがまとまってなくて、脚本に取りかかれなかったんだ。僕らは登場する人間関係をシンプルにしたり、あるいはより深く発展させたりした。またある部分は歴史的事実と照らし合わせて修正した。ストーリーの見直しが必要だった」
つまり「よく書き込まれていると思えた脚本」ではあったけれど、TVでシリーズ化するには粗削りだったのだ。「僕らの(脚本に対する)投資は、才能に賭けたからといっていい。これから素晴らしくなるという可能性を感じたんだ」
まるでギャンブルのような賭けに勝ち、パイロット版の撮影までたどり着く。しかし、TVを知り尽くしたノアは、ツキもここまでと一度はシリーズ化をあきらめる。
「パイロット版がCBSに採用してもらえるとは思ってなかった。というのも、僕らは何年か前にある最高に素晴らしいパイロット版を完成させたのだけど、それは結局ボツになった。その時僕は、どんな傑作でもうまく行かないこともあると悟ったんだ。だから今回(『レッドライン ~悲しみの向こうに』)もTVにしては出来が良すぎるんじゃないかと思ったのさ」
「レッドライン ~悲しみの向こうに」は同性婚の主人公(ノア)が人種問題に直面する人間ドラマ。まさに今の米国が抱える社会問題がテーマだ。しかし、それは十人いれば十色の意見で染まる複雑なテーマだけに、TVに手を上げてもらうのは難しいと考えたのだ。
「だけど、最後の最後に風向きが変わった。(制作の)ワーナーブラザーズ・テレビジョンの社長、ピーター・ロスから連絡があって、気に入ったって言ってくれたんだ。CBSが要らないというのなら、他を探すと」
ロス社長の肝いりとあって、「レッドライン ~悲しみの向こうに」の評価はさらに高まり、2019年春、CBSで放送された。娯楽ばかりがTVじゃない、ノアが思うより時代は変わっていたのだろう。
さらに、一年後、米クリーブランド警察による黒人男性暴行死をきっかけに全米で抗議活動・デモが発生した。ノアたちの直感は正しかったのだ。ただし、少しだけ時代を先取りしたという点を除いては。
「レッドライン ~悲しみの向こうに」が描くのは、米国で、今も、そしてこれからも起こりうる真実なのである。
<「hollywoodreporter.com」 2019年4月23日>