カナダの大人気医療ドラマシリーズの主演俳優は、サウジアラビア生まれの移民。カナダには、パキスタン人の両親とともに9歳の時にやってきた。移民としてキャリアを模索しながらも、俳優の道を歩み始めていたハムザは、カナダのドラマシリーズ「This Life(原題)」で、「トランスプラント 戦場から来た救命医」のクリエーター、ジョセフ・ケイと出会う。これが全ての始まりだった。
「彼(ケイ)は今のカナダで、褐色の肌を持つイスラム教徒であることについて、僕がどう感じているか尋ねてきたんだ」 ケイの頭には、「トランスプラント 戦場から来た救命医」の企画があったに違いない。どれほど具現化していたのか分からないが、ハムザを見て、ケイの創造力は一気に進んだのだろう。「彼は僕の話に興味を持った。それで僕はコンサルタントとして企画に参加することになったんだ」 しばらくして「This Life(原題)」は打ち切られた。同シリーズの製作総指揮の一人だったケイは温めていた企画に注力した。再びハムザに声がかかった。
「彼から、まだ役をオファーできるわけじゃないけれど、キャラクターを作り上げている段階だから、協力してほしいと言われたのさ」 当時のハムザにとっては、是が非でも手に入れたい役だった。「イスラム教徒が主人公だからね。タイムリーな内容であり、まだ誰にも語られたことのないテーマだと思ったんだ」 何より「その頃、僕がオーディションを受けていた役といえば悪役ばかりだった」。爆弾犯、テロリスト、そんな役にはもううんざり。ハムザにとって「トランスプラント 戦場から来た救命医」は心から演じたいと思える数少ない役だった。 「それから6か月くらいたって、僕が役を取れそうだと聞いた。その頃出演していた(ミニシリーズ)『インドでも刑事』で気に入られたらしい。僕が主演に躍り出たというわけさ」
「トランスプラント 戦場から来た救命医」の製作が始まったのは、「This Life(原題)」が打ち切りになってから、3年の月日が経っていた。実現するかどうかも分からない企画だったが、あきらめなければ夢はかなうもの。ただ、一つ苦労したこともあった。ハムザは完璧なカナダ人になっていたのだ。「僕はこれまで一度もアラビア語で会話したことがなかったんだ。幸いにも、コーランをアラビア語で読むことができたから、音の響きは知っていた。アラビア語の台詞を話す時には、その記憶を頼りにしている」 シリア難民のバシル・ハメッド医師を演じるにあたり、アラビア語とシリア方言のコーチをつけて撮影に臨んでいる。試写会を行った際には、なんとか及第点をもらえたという。2月には、シーズン3の製作が決定したばかり。ハムザのアラビア語はますます上達しそうだ。
<「etonline.com」 2020年8月25日>