宇宙を舞台にしたSF作品といえば、合成での撮影をイメージする人が多いのではないだろうか。
俳優がグリーンバック(緑のスクリーン)の前で演技を行い、後に背景を別の映像と組み合わせる合成技術は、今ではYoutuberにも普及するほど一般的。かつての合成シーンといえば、あまりにも分かりやすいクオリティで興ざめすることもしばしば。しかし、技術が格段に向上した現在、視聴者に不自然さを感じさせることはほぼなくなった。
とはいえ、どんなに合成技術が改善されようとも、セットを使ったリアルな撮影には及ばない。グリーンバック前の演技では俳優の想像力に限界もあるだろう。
たとえばブリッジと呼ばれるディスカバリー号の指令センターは細部までしっかり作り込まれている。艦内の廊下、食堂などもすべて本物。さらに艦内のドアが自動で開閉するのも本物で、俳優の動きに合わせ技術担当者がコントロールしている。
「スタートレック ディスカバリー」のリアル主義に最も恩恵を受けているのは、出演している俳優たちだ。ディスカバリー号の士官シルビア・ティリーを演じるメアリー・ワイズマンは、「私たちは皆さんが想像しているほど、グリーンバックの前で演技をしているわけではありません。ブリッジでのシーンはほぼ、そのセットの中で撮影しています。私たちにとっては一番身近な場所、ブリッジを現実に存在するものとして感じられるのです」と話す。
つまり、目で見て手で触わることのできるセットがあるために、自身も役にはまり込めるというわけだ。
そんな役になりきろうとする出演者たちを悩ませるのが、台詞の中身だとか。宇宙工学や物理学の用語が飛び交うこともある。理系人間でなければ馴染みがない。
「私が好きなのは英国文学の演劇なんです。そんな人間ですから、台詞を自分の頭に落とし込むのが、とても大変に思うことがあります」(メアリー)
これはマイケル・バーナムを演じるソネクア・マーティン=グリーンも同じらしい。むしろ、マイケルは主役であること、非常に論理的で知性的な人物として描かれていることからも、台詞の難易度はしばしば高くなる。
「もし量子力学に馴染みがなければ、一度勉強してみてください。終わりがないんですよ。目眩がしそうになるくらい。だけど、私は自分が何を口にしているのか理解できるところまで勉強しています。俳優として、台詞を自分のものとして発声したいのです」
セットだけではない、台詞だって徹底したリアル主義。視聴者を惹きつける「スタートレック ディスカバリー」の説得力は、スタッフ、出演者の全力のたまものなのだ。
<「thestar.com」 2020年10月11日>