ハリウッドの大半の実力派と同様、クリスティーンも演劇やミュージカルで演技を磨いた舞台人。もちろん映画やTVにも早くから出演していたが、どれも舞台の合間を縫っての出演だった。そんなクリスティーンの一大転機となったのが、1995年から1998年まで続いたシットコム「Cybill(原題)」。主演を務めたのは「こちらブルームーン探偵社」ですでに大スターとなっていた、シビル・シェパード。クリスティーンはシビルの親友マリヤン役だった。
いわゆる始まる前から話題の作品。スターを夢みる俳優ならば間違いなく飛びつく役のはず。しかしクリスティーンは、差し出された仕事を前にためらっていた。
「私のキャリアにおいて、決断を下すのに勇気を必要とした仕事がいくつかありました。『Cybill(原題)』はその最たるものでした」当時も今も、クリスティーンは舞台に情熱をかけていた。そのクリスティーンにTVのシットコムにレギュラーとして声がかかったのだ。
「脚本を読んで役に深い興味を持ちました。マリヤンは非常にウィットに富んでいて、脚本もおもしろい。だから困ったんです」
「Cybill(原題)」の脚本がツマらなかったら悩まなくて済んだのに。断るだけ。しかし、断るには惜しい作品だったから悩んだのだ。
「夜通し悩みに悩みました。ネットワーク(米CBS)で顔合わせの本読みのために、LAに行かなきゃいけなかったんです。何度、エージェントに電話して飛行機に乗らないと伝えようと思ったことか」
ブロードウェイの仕事が多かったクリスティーンは、NYに住んでいた。家族もいる。「Cybill(原題)」の仕事が決まればLA移住だ。それも気が進まない理由の一つだった。
「LA移住のような生活の変化も大きかったのですが、一番は『私はTV女優になりたいの?』ということでした。今回はパイロット版の撮影だけですから、脚本は一話分だけ。それなのに、うまくいけばネットワークは5年、7年といった複数年の契約を要求してくるのです。怖かったですね。本当にそんな長い間一つの仕事に専念できるのか?」
パイロット版が成功すれば、レギュラー放送のため、ネットワークと複数年の契約を結ばねばならない。スケジュールを抑えるため、出演料の高騰を防ぐため。
人生の決断を後押ししたのは、「Cybill(原題)」クリエーターのチャック・ロリー。すでに複数のシットコムを手がける売れっ子プロデューサーだった。彼の書くパイロット版の脚本にシビれたのが決め手になった。
「(脚本の)ページをめくるごとに引き込まれていきました。台詞のリズムとジョークも愉快でした。だからこの作品なら、うまくやれるかもしれない、そう思ったんです」
結果として「Cybill(原題)」は4シーズン続き、クリスティーンもエミー賞最優秀助演女優賞を受賞した。この作品がなければ、ロリーがのちに手がけた「ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則」に出演することもなかっただろう。「グッド・ファイト」「グッド・ワイフ」然り。
人生で最も重大な決断は、クリスティーンのその後の人生にとって最高の決断になった。言い換えれば、その決断を間違わなかったから、今のクリスティーンがあるといえるのかもしれない。
<「collider.com」 2020年12月16日>