イタリア産の海外ドラマは近年でこそ動画配信でたくさん見られるようになったが、かつて日本ではほとんど見られなかった。
しかし映画については、第2次世界大戦前からファシズム体制を背景に作られたとはいえ有名な撮影所“チネチッタ”を有し、名匠たちの傑作が多数生まれ、その後も亜流西部劇“マカロニ・ウエスタン”など娯楽性を重視した人気作群が量産されるなど、イタリアは映像大国のひとつだ。
そして、米国の「ER 緊急救命室」を参考に、エンタメ色の濃いメディカル(医療)ドラマが世界中で作られるようになったが、「DOC(ドック) あすへのカルテ」もそんな1本。なんと医療ドラマ大国・米国にフィードバックされるかのように、米国版の製作が決まった最新ヒット作だ(ちなみにギリシャではすでにリメイク済み)。
医師アンドレア(米映画『食べて、祈って、恋をして』にも出演したルカ・アルジェンテーロ)は、ある亡くなった患者の父親に拳銃で頭を撃たれ、12年間の記憶を失う。アンドレアは医師としての復帰を望むが、失われた12年間にあった数々の衝撃的な事実を知って悩むことも多く……。
“大きなリスクを背負ったスーパードクター”という題材自体はもはやけっして珍しくないが、筆者が面白いと思ったのは、アンドレアが“内科医”であること。
「ER 緊急救命室」以来、映像としての派手さを追求すると、どんな医療ドラマも緊迫した手術シーンを見せ場にしがちだったが、病を薬で治そうとする内科に注目した点、この「DOC(ドック) あすへのカルテ」は非常に斬新かつユニーク。
医療ドラマの人気が衰えないのは、現実の医療・医学の最前線が進化し続けるゆえ、常に新たな物語が生まれるから。本作からも医療の進化を知らされ、その希望が大きいのも魅力的。本国イタリアでは、コロナ禍を受けたシーズン2も成功し、今年、シーズン3も作られた。
【海外ドラマ評論家 池田敏 2024/6/28】
池田敏:海外ドラマ評論家。映画誌「スクリーン」などに寄稿し、TV・ラジオで出演や監修をすることも。著書は「『今』こそ見るべき海外ドラマ」(星海社新書)など。