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サバイバー: 宿命の大統領」のカル・ペンは、移民の両親の元に生まれたインド系米国人俳優。1999年に俳優デビュー以降、ハリウッドでは数少ないインド系俳優のパイオニアとして道を切り開いてきた。
カルはTVシリーズ「バフィ~恋する十字架~」などを皮切りに、さまざまなチョイ役出演を重ねるうち韓国系米国人俳優のジョン・チョーと映画『Harold and Kumar Go to White Castle』(原題)にW主演。このカルトコメディはのち2作の続編が製作される人気作となった。
映画に主演、こうなれば一気にハリウッドセレブ暮らしとなりそうだが、現実は違っていた。第一作の『Harold and Kumar Go to White Castle』はカルもジョンも当時無名だったためか、劇場では振るわず、二人が手にしたギャラはそれぞれ7万5000ドル(約800万円)のみ。
無名俳優にとってはナカナカの収入ではあったが、これは全てコミコミの金額。ここからモロモロ経費が差し引かれるのだ。
まず税金に10%、エージェントに15%、マネージャーに5%、そして弁護士、パブリシスト等々。最終的にカルの手元に残った金額は2万2500ドル程度(約240万円)で、当時の生活費のうち5カ月と半月分にしかならなかったとか。
カルいわく、俳優の取り分は「ギャラの30%くらい」。周囲の協力があってこその俳優業とはいえ、出演作及びそのギャラが少なければ当然生活は苦しい。
さらに売れ始めた俳優特有の事情が拍車をかける。出演作がヒットすると俳優としての未来に光が見えてくる。しかし、すぐに多額のギャラが手に入るわけではなく、当面の間日々の生活のためのバイトが必要だ。
「アパートの家賃を払うためにバイトしなきゃならなかった。だけど、そこで『Harold and Kumar Go to White Castle』の成功が邪魔になったんだ」ヒット作が出来て顔が知られてしまったばっかりに、バイト、特に接客業が出来なくなってしまったというのだ。
「店に来たお客さんが僕に気が付いて、僕の仕事について無駄話なんて始めたらどうする?店長はわざわざ仕事の邪魔になる奴なんて雇わないだろう?」
これは売れ始めた俳優にとってジレンマだという。俳優業が軌道に乗ってしまえば問題はない。しかし、そのわずかな間の無収入が、それまで売れずバイトに頼ってきた駆け出しには厳しいのだ。
「しかも、もう一つ厄介なのは売れ始めたからと言って決して次の俳優の仕事が保証されているわけじゃないってこと。それなのにスターバックスでさえ雇ってくれないのだからね」
バリスタにはなれなかったかもしれないが、その後カルは「24 TWENTY FOUR」「Dr. HOUSE」「ママと恋に落ちるまで」など人気シリーズに次々レギュラー出演を重ねた。さらにオバマ政権期には、俳優を休業してホワイトハウスに務めた経験をも持つ。
柔軟性こそカルの強み。ジャンルを問わず、これからも多方面で活躍するに違いない。
<「cnbc.com」 2019年9月26日>