1996年のアトランタ五輪期間中、死亡2名、負傷111名の被害者を出した爆破事件が発生した。平和の祭典期間中のテロ事件、ある一人の警備員の機転により大勢の人々を先に避難させていなければ、被害はもっと拡大していたかもしれない。その警備員リチャード・ジュエルは、事件直後には大勢の命を救ったヒーローと称賛された。しかしFBIの勇み足から、ジュエルは容疑者と誤認され、さらにマスコミの過剰報道により一転、国民の敵となってしまったのだ。
のちに真犯人である爆弾魔エリック・ルドルフが逮捕されたこの事件を、悲劇のヒーロー、リチャード・ジュエルを中心に描くミニシリーズが「
マンハント:デッドリーゲーム」だ。ジュエル役のキャメロン・ブリットンが、米TVのインタビューに答えている。デヴィッド・フィンチャー監督によるNetflixオリジナルドラマシリーズ「マインドハンター」で連続殺人鬼を演じ、エミー賞のゲスト男優賞にもノミネートされたキャメロン。出演作が続く、今注目の俳優の一人だ。
売れっ子の出演作選びは念入り。「その役がどれほど強いインパクトを持っているかが大切なんだ。なぜ、僕は彼に引きつけられるのか、彼のどこが特別なのか」キャメロンはスーパーヒーローを演じたいわけでも完璧な人間を演じたいわけでもない。その役に、キャメロン自身がどれだけ興味を持てるか、それが全てなのだ。
「ジュエルという男を調べてみると、彼は全く自分に自信が持てない奴で、自分の居場所さえ見つけられてなかった。彼は警官になりたくて頑張っていたらしい。なぜ警官かといえば、それで自分が強くなったように感じられると思ったからなんだ。それくらい彼は弱い人間だった」ジュエルはヒーローとはほど遠い人間だったわけである。キャメロンは、まずその部分を自分の中に吸収しようと考えた。
「役を作り込むにあたり、まず彼の欠点や迷い、恐怖みたいなものに集中した。そして最後になって、ようやくジュエルは本当の自分を見つけ出すことになる」ジュエルは容疑者と誤認されたことで苦難の日々を味わった。しかし、その逆境がジュエルに道を開かせたのだ。「もし爆破事件直後のジュエルのインタビュー映像と、そこから一ヶ月後の映像があったら見比べてほしい。全く別人なんだよ。彼はずっと自信に満ちた男になり、自分自身を守るため、逆境に立ち向かえるようになった。僕は一人の気弱な男が、段々と自信をつけてゆく様を演じたいと思ったんだ」
出世作「マインドハンター」の連続殺人鬼役を「演じるのはむしろ簡単だった」とキャメロンは答えている。なぜなら「(連続殺人鬼は)自信に満ちた奴だったから」。「マンハント:デッドリーゲーム」は実話をベースにしたクライム・サスペンスだ。それと同時に、一人の男が最悪の状況に立ち向かうことで自分自身を成長させる、一級の人間ドラマでもあるのだ。
<「denver.cbslocal.com」 2020年9月28日>