近年、TVドラマの世界では、主演スターがプロデューサーを兼任する番組が増えている。大物スターなら、番組開始からプロデューサーに名を連ねていたり、ロングランの人気番組では、途中から主演スターがプロデューサー兼任となったりする。これには、看板スターにプロデューサーの肩書を与えることで、その分ギャラをアップさせるという大人の事情も大きいが、“脚本を読んで演技をすること”以上に、番組の製作にかかわりたいというスターの欲求に応える意味もある。
そんなTV界の風潮に背を向けた男たちがいる。「スーパーナチュラル」主演の二人、ジェンセン・アクレスとジャレッド・パダレッキだ。
「スーパーナチュラル」は米でシーズン13を放送中。放送ネットワークのCW社長マーク・ペドウィッツ氏は「彼らが番組を辞めるというまで続ける」と二人に絶大な信頼を置いている。さらに、一部の製作スタッフを除けば、どのキャスト、スタッフより長く番組にかかわっているのもこの二人だ。
そうなれば、プロデューサーの肩書が欲しくなっても不思議ではない。しかし、「僕らは個人の自己満足に興味は無い」(ジャレッド)となんとも硬派な答え。プロデューサー兼任には全く関心が無いという。
「僕にもストーリー展開に関してはいろいろなアイデアがあるよ。だけど、僕らの番組にはロバート・シンガーら(ベテランの)プロデュ‐サーがいる。僕は番組のコーチじゃない、俳優として契約書にサインしたんだ。それに僕は俳優の仕事が大好きだから」(ジャレッド)
すでに監督として、数本のエピソードのメガホンを取ったジェンセンも現状に満足しているようだ。
「僕らは、自分が何をすべきか分かっている。俳優として、良い待遇を受けていると思う。それ以上のことには興味が無いね」(ジェンセン)
番組の製作については、プロデューサーたちに全幅の信頼を置く。しかし、二人には番組を誰よりも良く知っているという自負もある。だから、現場でアイデアを出すのをいとわない。
「あるシーンでの話だけど、僕らはセットに行って、そこで本読みをした。読み終えた後、これは間違っていると感じたんだ。だから『君が僕の台詞を読んでみて、僕は君の台詞を読んでみる』とお互いの台詞を入れ替えてみた」(ジャレッド)
長年キャラクターを演じてきた感覚で、サムが口にするべき台詞なのか、ディーンが口にするべき台詞なのか、肌で分かるつもり。お互いの感覚を確認しあい、そのエピソードを監督していたシンガーに進言した。シンガーはそれを受け入れ、台詞を入れ替えて撮影に臨んだという。
「スーパーナチュラル」はジェンセンとジャレッドの番組。だから、誰もが彼らに敬意を払い、彼らもその期待に応えようとする。「僕らは現場で、たくさんのトラブルを解決してきた。現場のムードを保ち、良い環境づくりに取り組んでいる。僕らにはその責任があると思う」(ジェンセン)
肩書は主演スター。しかし、二人は肩書など超えた、番組の太陽のような存在だ。二人がいる限り、番組は輝きを失うことはない。
<「variety.com」 3月21日>