THE WIRE/ザ・ワイヤー

あのオバマ大統領も「お気に入り」と公言した傑作シリーズ!
米ケーブル局HBO製作、機能不全を起こした組織とそこに所属する人々の軋轢をえぐり出す、社会人必見の刑事ドラマ

THE WIRE/ザ・ワイヤー

作品概要

西ボルティモアのストリートを舞台に、警察と麻薬組織におる終わりなきドラッグ戦争を描いた社会派クライム・アクション!

■イントロダクション

「THE WIRE/ザ・ワイヤー」(原題:THE WIRE)は、「ザ・ソプラノズ」や「シックス・フィート・アンダー」など、上質なオリジナルTVシリーズを制作・放映することでは他局の追随を許さない米ケーブル局HBOにて2002年6月2日に放映が開始された野心的な刑事ドラマだ。

物語の舞台はメリーランド州西ボルティモア。麻薬の売買が絡んだ殺人事件をきっかけに生まれた、特別捜査班と麻薬組織の追跡劇を縦糸に、ボルティモア市警察内部の政治的駆け引きや麻薬取引の世界での権力闘争を横糸にして、硬派で型破りなドラマが展開する。

本作のクリエイターのデヴィッド・サイモンは、ボルティモア・サン紙の犯罪記事担当の記者を13年間務めた経歴の持ち主。ボルティモア市警察に通って見聞きした経験が、これまでの犯罪ものジャンルに登場するようなステレオタイプな人物や陳腐な台詞を排してリアリズムを徹底させたドラマ作りに活きている。サイモンは、「THE WIRE/ザ・ワイヤー」について、「犯罪ドラマの形をとってはいるが、本当は、アメリカの一都市について、そして、我々がどのように共生しているかということについてのドラマなんだ。それと同時に、このドラマは、組織が一個人にどのような影響を与えるかということを描いている。警官であろうと、麻薬の売人であろうと、湾岸労働者であろうと、政治家や判事、弁護士であろうと、私たちは組織によって妥協させられ、それゆえ属している組織と闘わねばならないということを描いているんだ」と語る。

「最も知的で野心的なTVドラマ」 NYタイムズ紙
「賢くて深い響きを持ったTVドラマ」 エンターテイメント・ウィークリー誌
「知的で繊細でありながら残酷なまでに迫力がある」 TVガイド誌
「細心の注意を払って書かれ、繊細に演じられている卓越したドラマ」 デイリーバラエティ紙

米ボルティモアの都市生活をリアルに描き、TVドラマには稀なほど深く社会的なテーマを掘り下げた本作は、シーズン1の放送から間もなく全米中のメディアの注目を集め、タイム誌、エンターテイメント・ウィークリー誌、シカゴ・トリビューン紙、サンフランシスコ・クロニクル紙、フィラデルフィア・デイリー・ニュース紙等では、“ベスト・ドラマシリーズ”に選ばれるなど、大絶賛の嵐を巻き起こしたことでも話題に!

「THE WIRE/ザ・ワイヤー」 受賞歴

◆ピーポディ・アワード 受賞(2004年)
◆エミー賞 ドラマ・シリーズ部門 最優秀脚本賞 ノミネート(2005年)
◆ASCAPアワード(2004年)最優秀TVシリーズ賞受賞
◆イメージ・アワード 最優秀ドラマシリーズ賞ノミネート(2003年、2004年、2005年、2007年)
◆アルマ賞(2007年)TV部門最も活躍した俳優賞ノミネート

■作品解説

善悪の観念を揺さぶる、これまでにない型破りな刑事ドラマ

「出来の良い犯罪ドラマというのは、本質的には善と悪を描くものだ。正義、復讐、裏切り、償いといったものを通してね。それとは対照的に、「THE WIRE/ザ・ワイヤー」が目指しているものは他にある。我々は、善悪のドラマには食傷気味だったから、敢えてそのテーマは捨てることにした」と語るのは「THE WIRE/ザ・ワイヤー」のクリエイター、デヴィッド・サイモン。
これまでには無いような型破りな刑事ドラマだけに、登場人物たちも善玉、悪玉とすっきり分けられない。本作に登場する警察官たちは、一般の刑事ドラマで描かれるようなヒーローたちには程遠い人物がほとんど。無能だったり、冷酷だったり、自分を美化しようとしていたり、官僚制度で身動きできなくなっていたりと、一般企業の会社人間たちと大差の無い人間も多く登場する。一方、麻薬組織のメンバーたちも、金だけが目的で他人を傷つけても平気でいるような非道きわまる人間たちといった犯罪者のステレオタイプに押し込められていない。彼らの多くは、好むと好まざるとにかかわらず、そのような境遇に置かれてしまっているように描かれると同時に、人間らしさを覗かせる場面もキチンと見せる。ハードコアに現実を描写しながらも殺伐とした後味を残さないのも、警察側、麻薬組織側を問わず、視聴者が登場人物たちに共感を覚えることができるからこそなのだろう。

徹底した本物のリアリズム

「THE WIRE/ザ・ワイヤー」が全米メディアに絶賛されている理由の1つに、その徹底したリアリズムが挙げられるが、これはクリエイターたちの経歴に負うところが大きい。サイモンは、前述したように、13年間、ボルティモア・サン紙の犯罪記事担当の記者だった人間だし、彼と脚本を共著し、プロデューサーを務めているエド・バーンズは、ボルティモア市警察殺人課に20年勤続した元刑事。バーンズは、刑事時代、暴力的な麻薬の売人たちに対する捜査が長引いて、監視テクノロジーを使おうとした際、警察の官僚機構に直面して苛立った経験が多々あったとのことだが、それはそのまま「THE WIRE/ザ・ワイヤー」の設定やプロットに活かされている。そのリアリズムは、実際の犯罪者がこのドラマを観て警察の捜査に対抗するテクニックを学んでいるという報告まであるほど。また、地元ボルティモアの黒人コミュニティでは、このドラマに登場する人物に対応するような実在の人間を知っていると主張する人々も居る・・・と、2006年12月にワシントン・ポスト紙がレポートしている。

実力派キャストが集結!キャスティングの妙

徹底したリアリズムは、キャスティングにも及ぶ。サイモン曰く、「THE WIRE/ザ・ワイヤー」に登場する人々は、現実に彼が出会ったボルティモアの人々を組み合わせて創りあげた人物像だそうで、「本物の街の顔と声を見せるために」プロではない素人俳優を積極的にキャストしている。例えば、前メリーランド州知事のロバート・L・エアリッチ、フランク・M・リード三世牧師、前警察署長のエド・ノリス、前ボルティモア市長のカート・シュモークなどが、端役で顔を出しているが、最もユニークなのは、“リトル・メルヴィン”・ウィリアムスのケースだろう。ウィリアムスは、かつてはボルティモアの麻薬密売組織のボスだったが、1980年代にバーンズも関与した捜査の結果、逮捕されたという人物。そのウィリアムスが、「THE WIRE/ザ・ワイヤー」でキリスト教会の助祭役を演じているというのは、ちょっと意地悪な感じもするキャスティングである。もう1つ、ややこしいトリビアを。ジェイ・ランズマンという刑事は、実際の名前もジェイ・ランズマンという実在の刑事をモデルにした人物だが、本物のランズマンも、別の刑事の役でこのドラマに出演している。

「THE WIRE/ザ・ワイヤー」では、主要人物を演じる俳優たちでさえ、一般の視聴者にはなじみの無い面々が揃っている。その多くは、“キャラクター・アクター(=性格俳優)”と呼ばれる、いわゆる名脇役者たち。その中には、舞台出演の経験が豊富な実力派も居る。「THE WIRE/ザ・ワイヤー」は、HBOの看板番組だった「ザ・ソプラノズ」同様、ロケーション撮影が多いため、東部をベースにした俳優が多いが、例外的なのは、ジミー・マクノルティ役のドミニク・ウエストとストリンガー・ベル役のイドリス・エルバ。実は、この2人、イギリス出身なのだが、見事にアメリカ東部の労働者階級の人間のアクセントや話し方をマスターしている。特にウエストは、イギリスの名門高校イートン・カレッジ、名門大学トリニティ・カレッジ出身の中流上層階級の出ということで、「母国のイギリスではマクノルティのような労働者階級の刑事などにキャストされることはまず無い」(本人談)のだそうである。

■シーズン2 の見どころ

ボルティモア港を舞台に展開するシーズン2

西ボルティモア地区の麻薬売人たちと彼らを追う刑事たちとの闘いを描いたシーズン1に続くシーズン2の舞台は、ボルティモア港。港町として知られるボルティモアだが、港湾事業の景気は下向きで、貧困ギリギリの生活を強いられている港湾作業員たちの生活が描かれていく。本作のクリエーターでボルティモア・サン紙の犯罪記事担当の記者を13年間務めた経歴の持ち主であるデヴィッド・サイモンは、シーズン2を「労働の終焉とアメリカの労働者階級の背信への黙想であると同時に、邪魔をするものが何も無い資本主義は社会政策の代用とはならず、社会契約無しの未熟な資本主義は大多数の人間たちの犠牲によって少数の人間たちが潤う方向性を持つものであるという議論を意図的に提示している」と分析する。

シーズン2の根幹を成すストーリーでは、労働者階級の代表ともいえる港湾作業員組合の幹部が、自分たちの生活を守ることを目的に政治家を動かす資金作りのために、敢えて法を犯す行動に出る。このプロットは、まさに、サイモンと共同クリエーターのエド・バーンズとが、「THE WIRE」というシリーズ全体を通じて描こうとする主要テーマ、すなわち「堅気の人間がいかにして、このドラマに登場する犯罪者たちのような行動を取るまでに至るかを探求すると共に、勤勉さや努力は必ずしも正当に報われるとは限らないというセオリーをドラマ化する」のにピッタリあてはまる。その意味では、「THE WIRE」シーズン2は、シーズン1よりもずっと社会派ドラマ色が強くなっている。

シーズン2のキーパーソン

シーズン2ではボルティモア港に出入りする港湾作業員たちが多く登場するが、その中心となるのは、組合の資金作りのために密輸に絡む“裏の商売”に手を染めてしまう港湾作業員組合の幹部、フランク・ソボトカ(クリス・バウアー)と、彼が不出来な息子ジギー(ジェームズ・ランソン)より頼りにしている甥のニック(リーヴ・シュレイバーの異母弟、パブロ・シュレイバー)。また、フランクに密輸商売の片棒を担がせる謎の外国人犯罪者グリーク(ビル・レイモンド)とスピロス・ヴォンダス(ポール・ベン=ヴィクター)も出番は少ないながら強烈な印象を残す。警察側の人間としては、ジミー・マクノルティを初めとした、シーズン1で御馴染みのボルティモア市警察の面々の他、港湾局所属の警察官ビーディ・ラッセル(「ゴーン・ベイビー・ゴーン」で助演女優賞オスカーにノミネートされたエイミー・ライアン)が、コンテナ内で死んでいた13人の女性たちの第一発見者として捜査に加わる。

■シーズン3 の見どころ

よりダイナミックに展開する麻薬闘争

シーズン3は、話の舞台は再び西ボルティモア地区に戻って来るが、服役中のバークスデールに代わり、いずれは麻薬の売買から脱却して合法的な事業を始めることを目標とするストリンガー・ベルと、彼と結託して闘争を避けた合理的な麻薬ビジネスを進めようとするプロップ・ジョー、そして自分にとって邪魔になる者は情け容赦無く亡き者にして勢力を伸ばそうとするマルロ、それに彼ら全員にゲリラ戦を挑むオマールも交えて、西ボルティモアの麻薬をめぐる闘争はよりダイナミックに展開していく。

バニー警視の大胆不敵な作戦とは?

ボルティモア市警察では、ダニエルズのチームが麻薬売人たちを盗聴で追跡するかたわら、刑事部長ハワード・“バニー”・コルヴィンは、統計資料の犯罪の分類を変えることによってボルティモアの犯罪状況を表面上改善させるだけで満足している上層部の姿勢に疑問を持つ。自分の部下が麻薬売買のおとり捜査中に撃たれたことで、取るに足らない麻薬捜査に貴重な人材を無駄にする無意味さを再認識したコルヴィンは、市警だけでなく麻薬売人たちをも驚愕させる前代未聞で大胆不敵な作戦を思いつく…。

ボルティモアの市政のドラマも加わる

シーズン3では、麻薬売人たちの世界と市警察に加えて、ボルティモア市の政界も登場する。その中心となるのは、大きな野心を抱く若き市会議員トミー・カルケティ。現市長を含む重要なポストの多くは黒人で占められている黒人優勢なボルティモアの政界だが、西ボルティモアの麻薬犯罪の現状を利用しつつ、ボルティモア市警上層部とも政治的取引を駆使してコネクションを強め、市長の座を狙う。麻薬売買の世界、ボルティモア市警察、ボルティモア市議会と、「THE WIRE/ザ・ワイヤー」シーズン3は、これら異なる3つの世界がいずれも、幾層にも重なる複雑な力関係と人間関係をもって営まれていくさまを浮き彫りにしていく。

■シーズン4 の見どころ

くっきりと浮き彫りにされる教育問題

シーズン1では麻薬取引、シーズン2では港湾、シーズン3では市政の世界を鮮やかに描いてきた「THE WIRE/ザ・ワイヤー」だが、シーズン4では教育問題に鋭くメスを入れている。その中心となるのは、ボルティモア市警を辞めて地元の中学校に新任教師として赴任してきたプレッツと、同じく市警を去って教育の世界に足を踏み入れることになったバニー・コルヴィンである。その二人に絡むのは、ネイモンド、マイケル、ランディ、ドゥーキーら4人の8年生(日本の中学2年生にあたる)たち。

受刑者の父が居たり、継父に性的虐待を受けていたり、里子に出された状態だったり、子供を放ったらかしにする極貧の親を持っていたりと、それぞれ問題を抱えている彼らは、刑事から中学校教師に転職したキャリアを持つ番組のクリエーター、エド・バーンズ自らの経験から生まれたものだ。バーンズが教鞭を取った最初の年には120人居た生徒のうち13人が銃撃を受け、多くが目の前で人が殺されるのを目撃し、多くが刃物で刺される経験を持っていたという。バーンズは、教師に転職した時の心の準備はベトナム戦争に行く際の心の準備に最も近いものがあったと回想しているほど、彼が見た中学校の教育現場は荒れていた。「THE WIRE/ザ・ワイヤー シーズン4」に登場する学校での光景や子供たちの日常は、それゆえ、実にリアルである。

街頭(ストリート)でも市政でも新勢力が台頭

シーズン4は同時に、特別捜査班にとっての最大の敵でありターゲットであったエイヴォン・バークスデールとストリンガー・ベルが姿を消した後、急激に台頭してきたマルロ・スタンフィールドの非人間性と組織の全貌も明らかにしていく。クライマックスを迎えたボルティモア市長選でも、最初は劣勢が伝えられたトミー・カルケティが、老練な現市長ロイスを破ろうと必死に戦う。シーズンでは、街頭(ストリート)と市政の場という全く異なる2つの世界で新勢力が台頭してくる際に展開するドラマにも注目してもらいたい。

■シーズン5 の見どころ

最終シーズンではメディアの問題がテーマに

シーズン1では麻薬取引、シーズン2では密輸の舞台となる港湾、シーズン3では市政、そしてシーズン4では教育の世界と貧困を描いてきた「THE WIRE/ザ・ワイヤー」だが、最終となるシーズン5ではメディアに焦点を当て、本来、政治・経済・社会の現実を伝える役割を果たすはずのメディアが、その責任を誤ってしまうケースを描いている。舞台はボルティモア市の新聞社「ボルティモア・サン」。サン紙では不況の中、記者や編集者たちも厳しい状況に置かれていた。そんな中、実力が野心に追いついていないスコット・テンプルトン記者が、しかし1面に載るような特ダネ記事を次々と書き始める。上司たちは満足顔だが、ベテラン編集者ガス・ヘインズが、スコットの記事はどれもこれもウラが取れていないことに気付く。これは特ダネではなくでっちあげではないか?足で記事を探さず裏付けも取らずに、安易に文章をつむぎだすテンプルトンに対しヘインズは危機感を覚えるが、口当たりの良い記事を書くスコットを上司はひいきし、日々新聞は発行され、結果、捏造記事が巻き散らされてしまう……。実際に起こったNYタイムズ紙のジェイソン・ブレアの記事捏造スキャンダル(2003年に発覚)などをもとに脚本が作られ、利益の追求や人員削減、ニュースの質に対する情熱の終焉などが問題提起されているのだ。

シリーズの製作者、デヴィッド・サイモン曰く

「メディアの問題を通して「THE WIRE/ザ・ワイヤー」を終わらせるのが一番完ぺきだった。過去の4シーズンで描かれてきた“アメリカの都市”の問題を解決するには、まずこれらの問題の深さや大きさを認識する必要がある。それには大手の新聞社を描くのが一番だ。」とサイモンは言う。本シーズンの大部分の基礎をなすのが、サイモンの13年に及ぶボルティモア・サン紙での実体験だ。サイモンは最近の新聞業界の傾向を強く非難している。地元の新聞の経営が大手新聞社の支配下に置かれている現実や、メディア業界のリーダーたちが新聞の品質よりも株価中心に物事を考える風潮、賞の獲得や個人的な野望、インパクトのある記事に重点が置かれ、複雑な問題を一貫して詳細に描くという本来の目的が忘れられ、上質なジャーナリズムが危険にさらされているというのだ。

人気シリーズ「ホミサイド/殺人捜査課」の出演者が登場!

今回放送のシーズン5では、同じボルティモアを舞台にしたTVシリーズ「ホミサイド/殺人捜査課(1993~99 年)」のレギュラーキャストが参加している。まず、「ホミサイド」でメルドリック・ルイス刑事を演じたクラーク・ジョンソンが、本作ではボルティモア・サン紙の編集者ガス・ヘインズに扮する。ジョンソンはシリーズ最終回の監督も努めている。また、「ホミサイド」で人気キャラクター、ジョン・マンチ刑事を演じたリチャード・ベルザー(現在はTV「LAW & ORDER: 性犯罪特捜班」に同役にて出演中)が、本作でも同じジョン・マンチ役でカメオ出演している(シーズン5第7話)。

作品基本情報

原題 THE WIRE/ザ・ワイヤー
THE WIRE
データ 2008~2009年/アメリカ/COL/二カ国語・字幕/60分
製作総指揮 デヴィッド・サイモン(TV「ホミサイド/殺人捜査課」)
出演 ドミニク・ウエスト
ランス・レディック
ソーニャ・ソーン
ジョン・ドーマン
あらすじ

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