「グレーな世界へようこそ」
エリオット・ステイブラーは新しいパートナー、ダニー・ベックを迎えるときにこのように言っている。「“グレーな世界”とは、家族と生きながらえるために麻薬に手を出すという、いわば道徳的に曖昧な犯罪ばかりではない。犯罪はどれも凶悪であり、被害者たちは、誰かにとって特別な人だったことがわかる」そして、見ていくうちに本当のグレーな世界を目の当たりにしているのは視聴者だと気づかされる。特別今シリーズを通して視聴者は物語の本筋は中盤になってやっとわかるような構成になっている。そしてディック・ウルフの名前がクレジットに出てきたとき、つまり終盤になってやっと物語の核となる部分が見えるのだ。
シーズン8はベンソンの退場という、視聴者を落胆させる出だしになっている。物語上、オリビア・ベンソン捜査官はFBIの環境活動家たちによる犯罪行為の捜査に加わり、そのせいでおとり捜査に協力するという名目のもとワシントンに向かってしまったのだ。ただこの展開には裏話がある。ベンソンがシーズン開始早々に物語から退場しなければいけなかったのはベンソンを演じるハージティの産休が理由だった。そして復帰できるとなると物語は急に動き出し、瞬く間に彼女のミッションは完了し、さらにワシントンで性犯罪捜査を行うようになったのだ。替えのきかないキャスティングゆえの苦し紛れの対応ではあったが、このことにより物語に拍車がかかったともいえる。
それ以外の部分に着目してみると、今シリーズはベンソンとステイブラーそれぞれが抱えるパーソナルな悩みを描いている。ベンソンは自分の父親には別の家庭があることを知る。メロドラマ的な流れではあるが、ベンソンは半分しか血がつながっていない兄弟とレイプ犯罪の捜査の最中という場面で再会を果たす。そしてステイブラーは妻とヨリを戻す希望をどうにか見出そうとしていたが、その想いに反して離婚協議を進めるよう妻からプレッシャーをかけられる。そうこうしているうちに、ステイブラーの妻の妊娠が発覚。これがきっかけで彼の中での家族の優先順位に変化が起きる。
どちらの物語もメロドラマ的ではあるが、オリジナルの「LAW & ORDER」には見られない捜査官たちの内面を露呈するような内容に仕上がっている。そしてこれこそが「性犯罪特捜班」シリーズがオリジナルと一線を画すところである。